坂岡真の「うぽっぽ同心十手綴り 第5巻 藪雨」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第五弾。

まさかの展開。こうしたシリーズもののとしては、まず考えられない事件が起きる。

だが、このシリーズの根底に流れている暗い部分というものを考えれば、あり得ない設定ではない。

人は不幸を背負いながら生きている。長尾勘兵衛もそうである。その不幸が重ければ重いほど、目の前にぶら下がった幸せには、飛びつく気にはなれないというものだ。なぜなら、その幸せを再び失うことになるかもしれないという怖さが先立つからだ。

幸せは手の届く所にある限り、それは本人にとって希望になる。少しの勇気ときっかけで手に入るからだ。その希望とは安心感といってもいい。

だが、幸せはいつまでも手の届くところに留まっているわけではない。いつの時点かで手に入れておかなければ、永遠に失うことになってしまう。

残るのは後悔という思いだけである。

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内容/あらすじ/ネタバレ

今年も佐保之丞一座がやってきた。朝から綾乃の目が輝いている。実名で忠臣蔵をやるというのだから人気が出ないわけがない。

去年のちょうど今頃、一座の女役者・おりんが孕んだ体で運びこまれてきて出産した。

両国広小路の向こう側から囃子が聞こえてくる。橋の欄干に一人の少年がいた。芳香が匂い立っている。陰間か…。
幟には緒川佐保之丞一座とある。芝居小屋は中心に大黒柱を立てた粗末なものだ。

勘兵衛はおりんに再会し、生まれた子供も見た。名を勘太郎という。勘兵衛から名を取ったのだという。

芝居小屋の外に出ると、盛り場でたまに見る砂絵師の孫八がいた。

夕刻、惨事が起きた。佐保之丞一座の芝居小屋が倒壊したのだ。昼間、勘兵衛が見たときには縄腐れなどなかった。現場にはすでに本所廻りの宍戸馨之助が文七とともに現れていた。

この倒壊事故でおりんが死んだ。

縄には斬られた跡があった。一座は芝居を止めないと小屋に火をつけると脅されていたようだ。

座長のおさほはおりんの初七日にあたる日に法要芝居を打ちたいといった。おりんはおさほの妹であった。

砂八が勘兵衛を訪ねてきた。芝居小屋の縄を斬った野郎を見たという。たぶん陰間だ。まだ十二、三の小僧だという。

名は鶴吉、春菊楼の色子だ。だが、倒壊から三日後、鶴吉の遺体が釜屋堀に浮かんだ。

小屋の倒壊は三座の嫌がらせではないかという憶測が飛び交っている。判官びいきの江戸雀たちが佐保之丞一座応援に回っている。

孫八の話を聞くと、倒壊した芝居小屋はひとつふたつではない。昨秋以来、倒壊したのは五件ある。いずれも大当たりを取った小屋だった。

勘兵衛は邯鄲師の「神輿草」を追いかけ、内藤新宿まで来ていた。

土手下の高札場に男が一人さらされていた。見倒屋・備前屋の番頭で精三郎という。主人の妾と心中騒ぎを起こしたのだ。備前屋の主は久右ヱ門という。

銀次がやってきた。神輿草は風体どころか名前すらわかっていない。邯鄲師は旅人が寝入ったすきを狙って路銀を盗む枕探しのことである。

子育稲荷の境内から見世物の口上が聞こえてきた。

見世物は七尺はある実物の女体である。怪力女・おでんであった。こうした女たちは皆物悲しい顔をしている。

勘兵衛は備前屋を訪ねた。久右ヱ門から妻に先立たれ、子もいない身の上話を聞いた。同情を禁じえない内容だった。

久右ヱ門の唯一の楽しみは足力だという。背中のツボを踏んでもらうのだ。久右ヱ門のひいきはおでんだった。

勘兵衛は足力におでんを呼んだ。おでんは巳代次という男から離れられないでいた。ろくでもない男だ。

久右ヱ門のところに邯鄲師が入った。

江戸には大きな夜鷹会所がふたつある。一つは本所吉田町の会所、もうひとつが四谷鮫ヶ橋の会所だ。その四谷の会所にくつわの伊助を訪ねた。おでんが繋がれているからだ。

舟饅頭が殺された。梅雨に入ってふたり目。いずれも三十路なかばの女だ。太刀で背中を斬られている。舟饅頭の名はおひゃく。抱え主は与一だ。

もうひとりはおせん。おせんはおふうが辰巳芸者の頃の仲良しだったという。

もう一人殺された。名はおまん。殺しの手口はおせん、おひゃくと一緒だ。

与一がみつからない。ここにもう一人男がいる。旗本の黒木兵馬だ。西の丸書院番の組頭をつとめている二千石の当主だ。くそまじめな性質で、どうして岡場所に足を向けたのか周囲の人間すら首をかしげている。

雁次郎が勘兵衛を訪ねてきた。この頃、おふうの様子が変だとおこまがいっているようだ。妙な男がちょくちょく浮瀬に訪ねてきているらしい。

勘兵衛は橘町の喜久野屋を訪ねた。女将の菊恵がおふうと姉妹のように仲が良いのを思い出したのだ。

そこで話題に出たのは、おせん、おまん、おひゃくの三人がかつて辰巳芸者であったこと。そして、おふうとも知合いであったことである。

十数年前、おひゃくは情夫相手に刃傷沙汰を起こしたことがある。与一郎という。その与一郎がおふうを訪ねてきて脅していた。

そして、かつておふう達があがった座敷での一件が今になって…。

本書について

坂岡真
藪雨
うぽっぽ同心十手綴り5
徳間文庫 約三一五頁

目次

鹿角落とし
足力おでん
藪雨

登場人物

長尾勘兵衛
綾乃…娘
静…失踪した妻
井上仁徳…医師
銀次…岡っ引き、福之湯の主
三平…銀次の手下
おしま…銀次の女房
末吉鯉四郎
おふう…浮瀬の女将
根岸肥前守鎮衛…南町奉行
門倉角左衛門…吟味方与力
宍戸馨之介…南町本所廻り同心
文七…岡っ引き、びんぞりの異名
おこま
雁次郎
おりん
勘太郎
おさほ…座長
孫八…砂絵師
辻村貞次郎
鶴吉
川勝主水丞
鷲尾斧次郎
久保田初春
精三郎
久右ヱ門
おでん
巳代次
くつわの伊助
おひゃく
与一
おせん
おまん
黒木兵馬
菊恵

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