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坂岡真の「うぽっぽ同心十手綴り 第3巻 女殺し坂」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第三弾。

第一巻で書かれているように長尾勘兵衛は、

『家族といえば、勘兵衛はじつの両親を知らない。
養父母に教えられたはなしでは、亀戸天神の鳥居の根元に捨てられていたという。
宮司に拾われ、貰われていったさきが、風烈見廻り同心をつとめる長尾家であった。心優しい同心夫婦は勘兵衛を一人前の男に育て上げ、住む家と働く場所を遺してくれた。』

勘兵衛が惚れぬいて一緒になった妻の静は綾乃が生まれてすぐに失踪してしまった。一体なぜ?

その静の姿は、シリーズを通じて見え隠れする。本書でも静の姿が蜃気楼のように勘兵衛の前に現れる。

このシリーズは意外と暗い雰囲気に包まれている。だが、うぽっぽと呼ばれる勘兵衛の人柄と、その勘兵衛を慕う人々が、暗い雰囲気をやわらかい優しいものにしてくれている。

例えば、勘兵衛の良きパートナーである岡っ引きの銀次。幽霊が苦手で、勘兵衛と同じ年の五十三歳。勘兵衛の心意気気に惹かれた数少ない岡っ引きである。

さて、うぽっぽと呼ばれ、奉行所内では無能と思われている長尾勘兵衛を怒らせると怖い。前作でその怖さを披露したが、怒った勘兵衛の姿は、微笑仏ではなく、鬼が一匹いるかのようだという…。

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内容/あらすじ/ネタバレ

相良潤之助は南町奉行所の同心だった。御家人の三男のため、四十過ぎまで縁談がなかったが、降ってわいたような養子縁組が決まり、元天守番の家に婿入りした。千代田城の天守は家光の代に焼失して以来、再建されていない。潤之助の妻を利恵といった。

その潤之助が一刀で袈裟懸けに斬られた。

長尾勘兵衛が銀次と一緒に弔いに出かけた。途中、麻布で一番古い古道である女殺し坂を上る。

利恵は勘兵衛に、死ぬほど口惜しいと瞳で訴えていた。

その帰り、若い喪服姿の女を見かけた。女はみほといった。日本橋小舟町の目薬屋杏仁堂に奉公している。

杏仁堂は二代目に大きく発展し、今は三代目の与右衛門が店を仕切っている。世間の評判は芳しくない。

みほは与右衛門から使いをことづかり、忍藩の下屋敷まで進物切手を届けに訪れたという。切手は百両するものだった。それが掏摸に盗まれ困った時に相良に助けられたというのだ。

みほが殺された。こうがい橋横の牛鳴坂、別名・女殺し坂だ。末吉鯉四郎に指摘されるまでもなく、相良殺しとのかかわりは否めない。

相良は例繰方でありながら、ある一件を探索していた。勘兵衛は利恵に再度会ったときに話を聞いた。

それは、昨夏、女殺し坂で殺された潮田源八郎に関するものだった。

潮田家は源八郎が死んだ直後に断絶となっている。なんら斟酌されず、いきなりの断絶とは不思議なことだった。

さらに妙なのは、潮田源八郎が斬られた日の記録だけが破り取られていた。

この勘兵衛の様子を見ていたのは年番方与力の小此木監物だった。

みほは殺された潮田源八郎の妻女だった。

みほは何かを探るべく杏仁堂に奉公したのだ。次に調べる相手は目薬屋の与右衛門だ。

潮田が勘定所で任されていた役目が分かった。冥加金の徴収だった。

勘兵衛が斬られた。

瀕死の勘兵衛を助けてくれたのはおふうだった。

目を覚ました勘兵衛に門倉角左衛門からの伝言がきた。深入りするな。

初めて逢って時蔵が素姓を明かした晩、おりんは妙なものを欲しがった…

勘兵衛は半年ぶりに神埼猪之助に会った。元風烈見廻り同心。つつもたせに嵌められて一生を棒に振った。

神崎には美和という妻と、娘の美紀がいた。

仏があがった。名を時蔵。加賀前田家に出入りする渡り中間だ。女と一緒に居たのが目撃されている。相手はおそらく濡れぼとけだ。隠語で舟を使ったつつもたせをいう。

猛暑。仁徳が加賀藩の献上氷を頂いたという。

殺された時蔵は健脚を買われて加賀藩の氷飛脚となり、金沢から江戸へ献上氷を運ぶ重責を負っていた。だが、博打にのめりこんで身を持ち崩し、五年前に喧嘩が原因で石川島の人足寄せ場に送られた。

もどった時蔵は伝手を使って、加賀藩の氷奉行のところで氷室守をやっていたという。

勘兵衛はおりんがいるという木賃宿に向かった。綴帳には七助におりんの名がある。肩書きは六部巡礼だ。

張り込みから三日目。おりんが動いた。

おりんは「凛」という。零落した武家の娘で、父は加賀前田藩の氷奉行で穴水善左衛門といった。勘兵衛の目がきらりと光った。

そのおりんが拐かされた。加賀藩邸に連れ込まれたというのだ。

文月十五夜、盂蘭盆会。

女にはここ数年の記憶しかなかった。五年前、女は安芸国の尾道で生き倒れになっているところを救われた。

救ってくれたのは鬼灯の惣五郎という。西では知られた盗人一味の首魁だ。西から東へと盗みを繰り返しながら、江戸にやってきた。

女はお上に訴人はできなかった。命を救ってもらった恩義がある。生き地獄だった。

惣五郎は女におさよ(小夜)という名を与えていた。

惣五郎は二十年前に江戸で一度だけ捕まったことがあった。捕まえたのが長尾勘兵衛だった。それを聞いた女の脳裏に、突如、電光が走った。

末吉鯉四郎は犬探しをしていた。佐伯屋の狆がいなくなったのだ。その佐伯屋の娘・とよと勘兵衛は出会った。

大番屋に戻った勘兵衛は鬼灯の惣五郎の名を聞くことになる。

おさよは佐伯屋に奉公人として入り込んでいた。夜になると、一味の男に連絡をすることになる。

佐伯屋豊蔵は数年前から抜け荷に手を染め、莫大な利益を上げていた。

鬼灯の惣五郎が勘兵衛の前に姿を現した。そして、勘兵衛の妻・静の話をし始めた。

惣五郎は勘兵衛にじわじわと苦しみを与えながら殺してやると言い残して去って行った…

本書について

坂岡真
女殺し坂
うぽっぽ同心十手綴り3
徳間文庫 約三四〇頁

目次

女殺し坂
濡れぼとけ
月のみさき

登場人物

長尾勘兵衛
綾乃…娘
静…失踪した妻
井上仁徳…医師
銀次…岡っ引き、福之湯の主
三平…銀次の手下
おしま…銀次の女房
末吉鯉四郎
おふう…浮瀬の女将
根岸肥前守鎮衛…南町奉行
門倉角左衛門…吟味方与力
宍戸馨之介…南町本所廻り同心
文七…岡っ引き、びんぞりの異名
おこま
雁次郎
相良潤之助
利恵
小此木監物
みほ
与右衛門
潮田源八郎
戸澤主馬
草鹿十内
おりん
時蔵
神埼猪之助
美和
美紀
七助
穴水善右衛門
和倉右近
鬼灯の惣五郎
小夜:おさよ
とよ
卯平
佐伯屋豊蔵