佐伯泰英「酔いどれ小籐次留書 第1巻 御鑓拝借」の感想とあらすじは?

この記事は約5分で読めます。
記事内に広告が含まれています。

シリーズ第一弾。

赤目小籐次は五尺一寸(一五三センチ)。禿げ上がった額に大目玉で団子鼻、両の耳も大きい。特徴的すぎる容姿です。はっきり言って格好のいいヒーローではありません。

歳は四十九。現在であれば中年という歳でしょうが、江戸時代であれば初老といっていい歳です。

森藩一万二千石の下屋敷に勤める徒士で、役目は厩番です。

物語の最初で解雇されてしまうので「厩番であった」というのが正しいです。

俸給は三両一人扶持、文化期のお店奉公の女中以下の給金です。武士らしい体面を保っているとは言い難い身分です。

ですが、来島水軍流の達人である。小籐次の仕えていた豊後森藩は元々伊予来島の河野水軍一翼を担った来島家の家系です。

伊予の水軍が不安定な船戦で遣う剣術が来島水軍流なのです。愛刀は備中国次直。

酒好きの小籐次は柳橋の万八楼であった大酒の催物で三升入の漆杯で五杯、つまり一斗五升を平らげます。

これが第1章の題名であり、シリーズの副題となる「酔いどれの」由来となります。

ですが、これだけ飲んでも上には上がいるもので、三升入の杯で六杯半を平らげた人物がいました。そのため小籐次は二番でした。

この中年の小籐次が藩主の受けた屈辱をはらすために、満身創痍となりながらも孤軍奮闘します。

物語は文化十四年から始まります。翌年の途中から文政元年となりました。文化文政時代、あるいは略した化政時代。

十一代将軍徳川家斉の時代で、寛政の改革と天保の改革の間の期間にあたります。家斉は隠居して大御所となってからも政治の実権を握っていたため、大御所時代ともいわれます。

老中は水野忠成。田沼時代を上回る収賄政治を行った人物としても知られます。ちょうど、物語が始まる年に老中首座に就任しています。

さて、このシリーズは、こうした人物が絡んでくるのでしょうか?先々のお楽しみです。

映像化

  • 2013年にNHKのBS時代劇で「酔いどれ小籐次」としてドラマ化されました。
スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

文化十四年(一八一七)の陰暦三月。主である豊後森藩藩主・久留島通嘉の国表出発の見送りを、大酒の催しに出たがために出来なかった赤目小籐次。下屋敷の用人・高堂伍平はかんかんに怒り、とうとう暇を出された。

箱根湯本で小籐次は旧主・久留島通嘉の一行を涙ながらに見送った。そして小籐次は「通嘉様の悔しさをこの赤目小籐次が思い知らせますぞ」と心に誓った。

その矢先、小籐次は山賊に襲われている一行に出会い、これを助けた。久慈屋昌右衛門と娘のおやえ、手代の浩介の一行で、湯治に行く途中だったという。昌右衛門は助けてもらった礼にと小籐次を強引に湯治に誘い、小籐次はこれに甘えてついていくことにしたが、翌朝早くに宿を抜け出た。

小田原本陣を出発した讃岐丸亀藩五万一千石京極家の一行。これを箱根で小籐次は待ち受けていた。そして、開口一番、ちと仔細があって京極家の御鑓を拝借致すといって、行列に突っ込んでいった。丸亀藩も防戦をしたものの、見事に小籐次は丸亀藩の御鑓を拝借した。

丸亀藩ではすぐに草刈民部、市ノ瀬剛造、黒崎小弥太の三人を追っ手として差し向けた。

播磨国赤穂藩二万石森家の一行が大磯へと下る化粧坂に差し掛かっていた。この一行に、先行している丸亀藩に起きた出来事が知らされた。

小籐次はこの一行も待ち受けていた。丸亀藩と同様に御鑓拝借といって、御鑓を拝借した。

お先頭の古田寿三郎は小籐次が「拝借」といっていたことを気にしていた。拝借するということは、返されるということである。だが、その返され方が問題である。

小籐次を追尾していた丸亀藩の藩士・黒崎小弥太は、剣の腕はかなわないことが分かっていたが、意を決して小籐次と直接対面することにした。なぜ御鑓を拝借するのか、その理由を知るためにである。

三ヶ月程前に小籐次の主・久留島通嘉は城中で辱めを受けたのだという。その席にいたのが、京極長門守高朗、森肥後守忠敬であり、他に二名いた。

この席での主君が受けた屈辱をはらすために小籐次は動いているのである。

豊後臼杵藩稲葉家の家老・村瀬次太夫は丸亀藩、赤穂藩に起きた出来事について思い当たる節があり、わが藩も気を付けねばならないと感じていた。だが、またしても小籐次に御鑓を奪われた。

この村瀬の前に赤穂藩の古田寿三郎がやって来た。そして、事態を収拾するために、三ヶ月前にそろっていた四藩のすべてが久留島家、ひいては小籐次に何らかの償いをしなければならないと述べた。

でないと、奪われた御鑓は、江戸城下の見晴らしのいいところに晒されてしまう。

御鑓を奪われた三藩が残る肥前小城藩鍋島家に事の次第を告げにいったが、けんもほろろに追い返された。

一方の小籐次は最後の肥前小城藩の御鑓を狙っていた。

スポンサーリンク

本書について

佐伯泰英
御鑓拝借 酔いどれ小籐次留書1
幻冬舎文庫 約三三〇頁
江戸時代

目次

第一章 一斗五升の男
第二章 酒匂川流れ胴斬り
第三章 城なし大名
第四章 川崎宿暴れ馬
第五章 品川浜波頭
終章

登場人物

久留島通嘉…豊後森藩藩主
高堂伍平…用人
糸魚川寛五郎…留守居役
宮内積雲…江戸家老
久慈屋昌右衛門
おやえ…昌右衛門の娘
浩介…手代
京極長門守高朗…讃岐丸亀藩藩主
佐々木與三次…道中奉行
多田三右衛門…目付
木佐貫誠蔵…近習頭
草刈民部
市ノ瀬剛造
黒崎小弥太
森肥後守忠敬…播磨国赤穂藩藩主
新渡戸勘兵衛…道中奉行
古田寿三郎…お先頭
稲葉雍通…豊後臼杵藩藩主
村瀬次太夫…家老
村瀬朝吉郎
小日向秦右衛門…番頭
鍋島紀伊守直尭…肥前小城藩藩主
田尻藤次郎…藩主の親類筋
能見五郎兵衛
伊丹権六…留守居役
伊丹唐之丞…権六の実弟
おりょう…旗本水野監物の女中

タイトルとURLをコピーしました