佐伯泰英の「密命 第21巻 相克 密命・陸奥巴波」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第二十一巻。

春。金杉清之助は山形城下から仙台城下に入った。そして、父・惣三郎と神保桂次郎も仙台城下に入って行こうとしていた…。

すれ違う親子。奇遇に呆然とする惣三郎。そして、そのことを知り心の中に動揺を少し見せる清之助。

一方、江戸出立以来、師・惣三郎のいいなりとなり己を見失い、剣も粉々に打ち砕かれた神保桂次郎は、己の心の弱さを悟り、師から離れて一人修業に没頭しようとする。それを惣三郎は遠くから見守ることにする。

神保桂次郎は十一月の剣術大試合までに清之助に匹敵する剣術家になるのだろうか?

さて、このところ、すっかり影をひそめている尾張。

十一月の剣術大試合では再び尾張柳生の剣術家を送り込むのだろうか?それとも別の流派を送り込むのだろうか?

いずれにしても、この尾張が送り込む剣術家こそが、金杉清之助と神保桂次郎の前に立ちはだかる最強の敵となるのは間違いないだろう。

その前に、尾張の蠢動が始まることも…。

内容/あらすじ/ネタバレ

桜の季節。

みわと結衣の姉妹は母・しのの様子に密かに心痛めていた。父・惣三郎が神保桂次郎という剣術家に入れ込み、何処となく姿を消してからである。二人は母と力丸と一緒に飛鳥山に行く計画を立てた。

菊屋敷ではおみつが出迎えてくれていた…。

羽前と陸前の国境・笹谷峠に金杉清之助が差し掛かった。峠の南下で女の悲鳴が上がった。そこは八丁平と呼ばれ、平安時代は鬼の伝説で知られる有耶無耶関のあった辺りだ。その有耶無耶関の伝説を利用して鬼面をつけて旅人に悪さをしようという集団か。

旅人は武家方で女連れ。女はお美香様と呼ばれていた。襲う集団の頭領らしき男は白鷹と呼ばれている。

清之助は鬼面の集団から旅人たちを守るために間に入って行った。

清之助は仙台領に入って行った。

伊達家の仙台城下には、新陰流藩道場、願立流松林一門をはじめとして諸派道場がある。

清之助が城下に入った享保十一年(一七二六)。藩主は五代陸奥守吉村の時代である。

清之助は「芭蕉の辻」に立った時、監視される気配を察した。そして老中水野の偽の書付を所持して関所を潜り抜けたとして番屋に連れて行かれた。

清之助は呉服問屋の隠居・石橋鹿六の世話になった。

鹿六のところには三つ子の孫娘がいる。はこべ、なずな、すずなである。

鹿六は笹谷峠のお美香は御勘定奉人の山根三太夫の次女ではないかという。お美香は六、七年前に山形藩の分家に養女として迎えられたという。それが襲われた理由までは把握できていないと漏らした。

清之助は鹿六に連れられ、資福禅寺の虎然和尚の許しを得て修業の場とすることにした。

仙台藩ではまず願立流道場に行こうと考えている。

道場主の松林道之助はこころよく清之助に修業の許しを与えた。願立流松林道場はどことなく素朴で、鹿島の米津道場を偲ばせた。

この後、清之助は新陰流永井道場を訪ね、ここでも修行の許しを得た。永井道場での稽古の後、清之助は奥座敷に招かれて茶菓の接待を受けた。同席したのは先代の渋谷又三郎、藩主吉村の近習の迫田精右衛門らである。

笹谷峠の一件で、清之助は山根三太夫から命を狙われていた。山根は金貸しを営み、奥屋龍五郎と組んでいる。筑紫大願の他、民弥流居合の達人田宮伴三郎なる剣術家が清之助を狙っているらしい。

清之助の仙台での日常が始まった。青々庵でかたち稽古を繰り返し、体が温まると永井道場に向かった。十一月までの剣術大試合までひたすら剣術修行に明け暮れるため、朝稽古は永井道場、昼からは松林道場でと考えている。

神保桂次郎は会津相馬湊の鵜の尾岬に座して日の出を待っていた。

金杉惣三郎と神保桂次郎は陸奥中村藩に入って行った。そこの一刀流古町與三郎重厚道場で初めて惣三郎は桂次郎に試合を許した。

その試合で桂次郎は内心驚愕していた。激しい攻めに竹刀を弾いただけにもかかわらず、相手が横手に吹っ飛んで転がったのだ。力ではない、弾みでもない。何かが起きていた。

惣三郎と桂次郎は仙台藩領に入った。惣三郎は仙台一の藩道場を避けた。二人が訪ねたのは四兼流芳賀十郎兵衛光忠の道場である。

惣三郎はここで清之助が仙台入りしていることを知った。奇遇に呆然としながら、今の桂次郎では清之助の相手ではないと思っていた。予定を変えて山形城下に向かうことにした。

だが、桂次郎はこの機会を逃しては仙台城下の剣術家と竹刀を交えることがないと考え、惣三郎に初めて逆らって仙台城下に戻った。そして永井道場に向かった。

桂次郎は己が敗北した理由を相手の技量にあるのではなく己の心の弱さにあることを悟らされていた。

一人修業に没頭しようとする桂次郎の姿を見て、惣三郎もそれならばそれもよしと静かに見守ることにした。

清之助は永井道場の酒宴に招かれた。若手だけでの酒宴のはずが、伊達一門による酒宴にかわり、その場で藩主吉村からの伝言を受けた。城中に招かれたのだ。

清之助は父・惣三郎が仙台に居たことを初めて知らされた。これを聞いた清之助は、夢でうなされた。半睡半覚の中で父の選んだ困難な道をたどっていた。

本書について

佐伯泰英
相克
密命・陸奥巴波
祥伝社文庫 約三二〇頁
江戸時代

目次

序章
第一章 菊屋敷の三人
第二章 竹林の庵
第三章 仙台の道場
第四章 寒風沢の冷雨
第五章 鎖鎌井原魏円

登場人物

金杉惣三郎
金杉清之助…長男
しの…妻
みわ…長女
結衣…次女
力丸…飼い犬
葉月…伊吹屋の娘
おみつ…菊屋敷の女衆
神保桂次郎…新抜流
山根美香
山根三太夫
白鷹
源田五郎次…神面奇抜一刀流
筑紫大願…東軍流
奥屋龍五郎
田宮伴三郎集意…民弥流居合
伊達吉村…五代仙台藩主
武田宗三郎…町与力
市村兵衛之丞…御目付
伊達邦久
石橋鹿六…呉服問屋の隠居
はこべ
なずな
すずな
新松…鹿六の小僧
願哲
虎然和尚
松林道之助…願立流道場主
渋谷又三郎武敬
永井覚弥…新陰流道場主
迫田精右衛門
中戸豹之助
若槻陽太郎
古池兼次郎
芳賀十郎兵衛光忠…四兼流
古町與三郎重厚
おふく
井原魏円…大岸独創流
お杏…「め組」冠阿弥膳兵衛の娘、登五郎の女房
昇平…「め組」通称・鍾馗の昇平
跡部弦太郎…幕府御小姓組組頭の嫡男

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