佐伯泰英の「密命 第16巻 烏鷺-密命・飛鳥山黒白」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約5分で読めます。
記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

シリーズ十六弾。冒頭、清之助が登場するが、今回は惣三郎が主役。所々で清之助が登場するが、基本的には柳生の里からどう移動しているかといった内容である。もちろん、ただ単に移動だけしているわけではないが…。

一方、約一年ぶりに江戸に戻ってきた金杉惣三郎と結衣。六郷の渡しで今市の円蔵という渡世人と知り合い、またその前から跡部弦太郎という大身旗本の御曹司とも知り合う。シリーズの新しいメンバーになりそうである。

六郷の渡しは現在の多摩川の下流、京浜東北線と国道一号線の橋が架かるあたりにあった。また、昔は下流の多摩川を六郷川と呼んでいた。

題名の「烏鷺」は「うろ」と読む。広辞苑によれば、1.烏と鷺(さぎ)、2.黒と白を意味し、「烏鷺の争い」という言い方で、黒石と白石を使って勝負を争う意味から、囲碁の異称となるそうだ。ということで、今回のキーワードとなるのが囲碁。

囲碁というと隠居の道楽のようなイメージがあるのだろうし、惣三郎が五十路を過ぎたのに引っかけているのかも知れない。折しも、金杉家は世代が交代し始めようとしている。

惣三郎としのが早晩、爺様婆様になる日も近そうだ。みわと鍾馗の昇平が結ばれそうであるし、結衣にも新たな恋が芽生えそうである。

五十路を過ぎたことで、剣術家としての峠を越えたことを気にする惣三郎。吉宗から拝領の五畿内山城来国光は従来つかっている剣よりも短く軽い。

吉宗が早晩そうした剣をつかう時期が来るはずだとの配慮で下されたものだ。だが、そうした配慮も何のその、まだまだ惣三郎の剣は冴え渡る。

尾張の徳川継友、宗春兄弟との決着はついておらず、これからも刺客が惣三郎を襲ってくるだろう。だが、円熟味を増した惣三郎の剣は、従来の豪剣から、真の達人の剣へと移行して行くにちがいない。

図らずもこの戦いに巻き込むことになってしまった息子の清之助は豪剣を使い、まだまだ途上の剣士である。柳生で再会した清之助は惣三郎の目にも、ひとかどの剣士として成長した姿を見せ安心させる。

豪剣を継いだ清之助と、それを捨てて新たな境地へ向かう惣三郎。こうしたところにも世代の交代が感じられる。

微塵という武器が登場する。分銅の一つを振り回せば、三尺(九十センチ)あまりの得物になる。二つの分銅が対峙するものの体を打ったり、刀にからめて引き落としが出来た。

間合いがあれば、飛び道具として投げつけ、三つの分銅が大きな回転をして、敵の刀にからみつき、骨を砕いてたおすことができた。分銅の重さは五、六十匁(二百グラム前後)で、分銅に打たれるだけで、骨は木っ端微塵に砕ける、ゆえに微塵という。

なんとなく、佐伯泰英氏の「狩り」シリーズで夏目影二郎が身に纏う、両裾に二十匁(約七十五グラム)の銀玉を縫い込んだ南蛮外衣を想起させた。

鍾馗の昇平がめ組に厄介となっている経緯が語られている。昇平の父は三河町で機織りで縦糸の間にぬき糸を通す道具の杼(ひ)を作る職人だった。

父母に弟、妹二人の六人家族だったが、正徳二年(一七一二)二月、神田四軒町からの出火で家族を失った。途方に暮れていた昇平に声をかけたのが芝鳶の辰吉だった。

スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

金杉清之助が柳生の里を去る時が来た。その後を女剣客闇澤ノ風子が追って走り出した…。

享保十年(一七二五)早春。金杉惣三郎と結衣は箱根の関所を越えようとしていた。この度の思わぬ旅で結衣は幼心を残す娘から大人の女への階段を上ろうとしていた。その二人の前に四人の若侍が姿を見せた。その若者らが二人の武芸者風の侍に行く手をふさがれていた。

はからずも四人の命を救った惣三郎だったが、この四人が惣三郎親子にくっついた道中となる。四人組の頭は幕府御定番目付の跡部弦太郎といい、他の三人は配下の久坂穣次郎、鈴木四郎兵衛、田野村小三次という。

跡部は駿府城御定番目付としての任務を担い、駿府からの帰路だという。駿府城内では二十年に一度の大修繕が進行中である。どうやらこれに関連して不正があったようだ。

弦太郎は詳しいことをはぐらかすようにいう。惣三郎はそうしたところに弦太郎の、外見とは裏腹に芯のしっかりした慎重な人柄を見て取った。

跡部家は二千七百石の大身旗本である。弦太郎は直系の血筋ではなく、妾腹だといい、跡部家に入る前は深川で育ったという。

惣三郎と結衣が江戸に戻るという知らせを受け、忽ち石見道場、め組、冠阿弥、水野屋敷、南町奉行所、荒神屋、伊吹屋の人々が六郷の渡しまで出迎えることになった。六郷の渡しにはすでに定廻り同心の西村桐十郎と花火の房之助がいた。

惣三郎と結衣、跡部弦太郎の一行は最後の川崎宿をたち六郷の渡しに着いていた。跡部弦太郎のお役目もあと少しというところまで来ていたが…。

惣三郎一家はしばらく飛鳥山で静養することにした。菊屋敷の隣には南部盛岡藩の御側目付を勤めていた隠居の服部與兵衛が越してきていた。碁が好きな人で、江戸から碁仲間が来るという。

昇平が菊屋敷に飛び込んできた。清之助の手紙を携えてだ。この昇平が菊屋敷に滞在している間に、惣三郎にみわとの結婚を申し込んだ。

飛鳥山では八月まえから辻斬りがおきていると稲荷の中造親分が教えてくれた。三件目の遺体を見た惣三郎は並の遣い手ではないと見た。
この後、六郷の渡しで結衣を助けた今市の円蔵が菊屋敷を訪ねてきた。楽しい時間を過ごし、円蔵は夜明け時分にそっと菊屋敷を去った。

江戸から西村桐十郎が葉月を伴ってやって来た。桐十郎は南町奉行内与力の織田朝七の命で辻斬りの一件を聞きにやってきたのだ。

菊屋敷に跡部弦太郎の家来・久坂穣次郎がやって来た。弦太郎の父・継胤が惣三郎に礼を言いたいので都合を伺ってこいと命じたのだ。返事を持たせ久坂穣次郎を江戸に帰したが、すぐに変事がおきた。久坂穣次郎が辻斬りにやられたのだ。

江戸からすぐに跡部弦太郎と鈴木四郎兵衛、田野村小三次らが駆けつけ、南町奉行内与力の織田朝七と、御小姓組組頭の跡部継胤も駆けつけてきた。

一体辻斬りは誰なのか?中造親分は江戸から来ている人間だとは思わない、地元の人間だろうという。だが、そうした凄腕の人物の話は聞かない。だが、惣三郎は心当たりがあるらしく、その確証を得るために動き始めた。

本書について

佐伯泰英佐伯泰英
烏鷺 密命・飛鳥山黒白(密命16)
祥伝社文庫 約三三〇頁
江戸時代

目次

序章
第一章 六郷の渡し
第二章 飛鳥山の隠居
第三章 今市の円蔵
第四章 近江国針畑峠
第五章 飛鳥山黒白

登場人物

闇澤ノ風子
出羽参左衛門
篠田璽斎
真田兵衛
跡部継胤…御小姓組組頭
跡部弦太郎…幕府御定番目付
久坂穣次郎
鈴木四郎兵衛
田野村小三次
今市の円蔵…渡世人
服部與兵衛
足立専造
龍野備中
稲荷の中造親分
豊次
岳之助…猟師
ごんた…犬

タイトルとURLをコピーしました