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佐伯泰英の「夏目影二郎始末旅 第2巻 代官狩り」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第二弾

本作の副題は「夏目影二郎危難旅」

前作で、腐敗した八州廻りを粛正し、江戸への帰府が認められ、流罪人名簿からその名が消された夏目影二郎。その話は老中・水野越前守忠邦に伝わり、老中直々に影二郎の赦免手続きがなされる。

今回の旅は深川極楽島から始まる。

「飲む・打つ・買う」だけでなく、阿片窟もあり、通常の遊びに飽き足らなくなった連中が集まる悪所である。

ここから端を発した事件が、やがて幕府の天領を巻き込んだ事件へと発展していく。

この舞台となる天領とは幕府の直轄地のことである。

家康の頃は二百万石、綱吉の時代に諸大名の改易・減封で四百万石に達していた。

本書の舞台である天保の頃は三百三十万石だったそうだ。

この徳川幕府の天領の大きさを考えると、将軍家の大きさがよくわかる。他をしのぐ圧倒的な大大名なのだ。

若干話がずれるが、江戸時代の直前。豊臣家の所領は、徳川家のそれに比べると、必ずしも広くはなかったが、圧倒的な資産があったのはよく知られていることである。この豊臣家の財力の源になったのが、貿易であったといわれている。

対する徳川家は、その領地の広さに比べて、年を追う毎に財政が逼迫し、幕末には蔵の中はスッカラカンだったという。

どんなに競争力に差があろうとも、貿易は行わないよりも行った方がよいというのは、常識であるが、鎖国体制が徳川幕府の体制を弱めた原因の一つであるのは間違いがないようだ。

さて、このシリーズは、江戸時代も後半が舞台。幕府の財政状態はいいとはいえず、数十年後には崩壊することになる。

そして、皮肉なことに、崩壊に突き進んでいる政権では、財政が逼迫するのと同時に、政権機構自体の腐敗も進行していることが多い。

そうして、腐敗した政権機構を「狩る」のが夏目影二郎。こうしたヒーローは現代の日本を見ていると、受け入れられる素地があるような気がする。だからこそ人気のあるシリーズなのだろう。

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内容/あらすじ/ネタバレ

…人間の欲望を塗り固めた悪所、深川極楽島…

三日前、勘定奉行所帳面方の尾藤参造が殺害され、死体が深川極楽島の堀に浮かんだと伝えてきたのは、勘定奉行の父・常磐豊後守秀信の遣いとしてやってきた、菱沼喜十郎という初老の武士だった。

…影二郎は久方ぶりに深川極楽島の地を踏んだ。無頼の生活をしていた頃以来のことである。すると、早速わかったのは、尾藤参造がおていという遊女に会っていたということであった。

どうやら、尾藤参造はおていと会っている時に、ある人物を見かけ、その人物を探っている内に殺されたようだ。その人物は”おたかの旦那”と呼ばれているらしい。一体何者なのか?

そして、尾藤参造は書き残しをしていた。そこに書かれていたのは、岡本次郎左衛門、平林熊太郎、村越大膳の三人の名であった。この三人は、不正の疑惑有りとされる天領の代官、郡代たちであった。

これとは別件で、父・秀信は新任の八州廻り・浜西雄太郎に命じて、加賀藩が阿片売買に関与しているとの情報の真偽を探らせていた。その浜西雄太郎の行方が知れなくなっている。

この事と、尾藤参造の事件とが絡んでいるのか?

…天保九年(一八三八)。碓氷峠。夏目影二郎と愛犬のあかは坊主の集団に襲撃された。そこに現れ、影二郎たちを助けたのは水嵐亭おこまと名乗る水芸人だった。

このおこまは、一体何者か?影二郎はおこまを連れて、浜西雄太郎の足取りを追った。

すると、蝮の幸助に出会い、七坊主に関する情報も得た。七坊主とは影二郎を碓氷峠で襲った連中である。

…幕府直轄中野領に入った。代官は岡本次郎左衛門である。ここに浜西雄太郎が訪れた形跡がある。

この中野領では、代官以上に手付を兼任する元締の佐野勢三郎が幅をきかせていた。そして、ここ中野領では幻遊亭と呼ばれる、それこそ深川極楽島を模したような場所があるそうな。

ここで稼いだ金は、幕府にはいるのと同時に、別のところにも流れているようだ。

…頸城、魚沼の両郡を支配する代官陣屋。ここでも風雲急を告げているようだった。そして、前田家の参勤交代の行列の中でも異変が起きていた。

これらの変事の陰に隠れるようにして存在してきた七坊主。影二郎は、この七坊主どもを追い、飛騨高山に向かう…

本書について

佐伯泰英
代官狩り
光文社文庫 約三八〇頁
江戸時代

目次

第一話 潜入極楽島
第二話 暗雲碓氷峠
第三話 刃風信濃川
第四話 騒乱親不知
第五話 飛騨受難花
第六話 深川大炎上

登場人物

岡本次郎左衛門…中野領代官
佐野勢三郎…元締
亀吉…なんでも屋
平林熊太郎…川浦陣屋代官
川霧の五郎…十手持ち
藤右衛門…青苧問屋信濃屋隠居
竺蔵…松代村の親分
村越大膳…飛騨高山代官
朝日東蔵…元締
美濃屋周左衛門
雲方西次
奥村俊助…前田家家臣
奥村房兼
斎藤権右衛門…横目頭
前田斉泰…加賀藩十三代目藩主
毛抜の眼覚…七坊主
浜西雄太郎…八州廻り
水嵐亭おこま…水芸人
木曾屋甚五郎
鬼面の壮八
野犬の仙太
おけい
善五郎
おたつ
てい
尾藤参造
伊津…母
菱沼喜十郎