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宮本昌孝の「藩校早春賦」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

続編に「夏雲あがれ」があります。

東海にあるわずか三万国の小藩を舞台にした少年三人の友情と成長を描いた物語です。

三人とは筧新吾、曽根千之助、花山太郎左です。この三人が生きた時代とは次のように書かれています。

『(前略)東洋の植民地化をめざす欧米列強の日本沿岸出没が頻くなるにつれ、鎖国体制も絶対のものではなくなりつつあった。そうした矛盾と不安が増大する中、いつまでも旧来の体制下では、武家の世は崩壊してしまう。そういうことを、幕府も諸藩もこぞって本気で危惧しはじめたのが、新吾たちの生きたころであった。』

三人の生まれ育った藩では静かに陰謀が巡らせています。そこには蟠竜公という野心を捨てきれない藩主の叔父の姿が見え隠れしています。

三人のうち、筧新吾は様々な形で藩の陰謀に徐々に巻き込まれていきます。それを助けるのが曽根千之助であり、花山太郎左です。これにさらに力強い味方となるのが藩の御意見番・鉢谷十太夫です。

さらには、藩の影の隠密隊というべき白十組が加わり、蟠竜公の陰謀を阻止しようと動き出します。(この白十組の頭領というのは意外な人物に強く関係しています。)

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内容/あらすじ/ネタバレ

新吾と仙之助、千代丸の三人が野入湖に鰻取りに来ていた。城下西郊の野入湖を誰もそうは呼ばぬ。弁天川と呼ばれている。新吾と仙之助は月代を剃っているがあどけなさが残る。まだ十五歳である。

ここに太郎左が稽古道具を引っ担いでやってきた。新吾、仙之助、太郎左の三人は御弓町の直心影流高田清兵衛道場に通っている。太郎左は十代の門人の中では最も上位にある。

千代丸はこの花山太郎左の弟である。この太郎左が、藩校ができるといった。この三人の生まれ育った東海の三万石の小藩にできるのだ。校舎は新明平につくるという。

太郎左が興奮しているのは、この藩校に剣術所もでき、その教授陣をどうするかである。城下には高田道場の他に興津道場がある。この二つの道場はともに直心影流を教えているが、高田道場には下士が集まっているのに対して、興津道場は上士が集まっている。自然と仲が悪い。

筧新吾と花山太郎左の家はいずれも徒組の士分だが、曽根千之助の家は格式が高い。本来なら三人が竹馬の友になることはあり得ないのだが、三年前の冬、研町の秋葉神社で起きた出来事によって強い絆で結ばれるようになった。

三年前。

新吾は隣家の末娘・恩田志保を連れて秋葉神社の火祭りに出かけた。太郎左も来ているはずだった。

興津道場の渡辺辰之進を見た新吾は胸騒ぎがした。辰之進の取り巻きの中に仙之助というのがいた。

新吾は太郎左が危地に陥っていることを確信した…。

藩主河内守吉長のお声掛かりによって、藩校剣術所の教授方は高田道場と興津道場の十代の門弟五人ずつの対戦によってきまることになった。

大将は太郎左、副将に新吾、先鋒に仙之助が決まった。

この対戦は、吉長の「下品の剣じゃ」の一言で決まった。教授方は高田清兵衛が務めることになった。

新明平では藩校建設のさなかである。

この建設は事故が多い。今日も柱が折れた。それを八幡村の金平娘・お花が受け止めたので被害はでなかった。だが、犬馬心院さまの祟りだと人足たちがおびえ始めた。

その夜、三人が化け物退治に出かけた。途中、藩主吉長にも信頼されているご意見番・鉢谷十太夫に出くわして怒られた。もう一人作事奉行の沢田源衛門も現れ、三人は返された。

新吾は鉢谷十太夫を訪ねた。この度の相次ぐ不祥事について何かを知っているのではないかと思ったからだ。

十太夫は蟠竜公の指図だろうと考えていた。蟠竜公とは藩主吉長の叔父で、かつて先代藩主の毒殺未遂事件にかかわったとされる人物である。今なお野心を捨てていないと噂されている。

藩校の開校日、筧家は次男助次郎と三男新吾に入校の通達があった。長男の精一郎は文武に優れており、一家の期待を担っている。それに対して次男の助次郎は新吾に輪をかけて学問嫌いである。

登校の途中で新吾は志保の姉・真沙の姿を見た。近くに男がいる。新吾は胸騒ぎを覚えた。密会していた…。そうとしか思えない。真沙はすでに嫁いでいる身である。

太郎左の弟・千代丸は一番年少の者たちに素読を教えるらしい。太郎左と違って千代丸の出来は良い。

下校の時、定番士に秋津右近というものがついたことを知った。仙之助はどこかで聞いたことがあるような気がした。この男と真沙は会っていたはずなのだ。

正体を知ったところで新吾は次兄・助次郎に聞いた。助次郎は方々を遊び歩いているおかげで様々なことに詳しい。

それによると、右近は隠し目付であったころから身持ちの悪さが噂されていた人物である。真沙と逐電するつもりだったようだが、当の真沙が姿を現さなかった。

その人物が何故今になって…。

新吾は講堂で軍学を受講している。長沼流軍学の大山魁夷教授に教わる諸生は何かと大変である。

試験が不出来だった新吾は教授の屋敷で一晩みっちり絞られることになった。

新吾に課せられたのは一晩寝ずに大山魁夷または従僕の伍助の攻撃を防ぐことであった。

見知らぬ侵入者が入り込んだようだ。手の込んだことを…と新吾は思った。

その者は小山小吉起きよとすさまじい怒号を浴びせた。大山魁夷は相手に向かって言い訳をしている。相手は川田六兵衛というらしい。

そして大山魁夷が新吾に語った真相とは…

次兄の助次郎は不真面目を絵にかいたような若者である。だが、ちかごろあろうことか勉学にいそしんでいる。

不審に思った長兄・精一郎が新吾に詰め寄って真相を吐けという。だが、新吾もわけがわからない。

助次郎が夏目玄鶴の野人学舎に参加するという。

夏目にはよしゑという娘がいる。仙之助からそれを聞いた新吾は嫌な予感がした。

いつもの助次郎のように、女に平気でちょっかいを出しているのなら心配はない。だが、今回は様子が違う。本気のようなのだ。

新吾は儒者川辺魚伯を訪ねた。

魚伯はよしゑが二十三歳で嫁に行ったあとの話をしてくれた。嫁入りした家の主・青野主馬は酒乱の癖があった。息子を溺愛する母の美千代が隠ぺいしていたらしい。

徒組は桜井流水術の稽古が義務付けられている。今年も御前踏水が行われる。

太郎左と新吾は水剣の練習で忙しい。太郎左が張り切っているのは由姫に声をかけてもらうためだ。

国家老・石原織部の嫡男・栄之進が水剣の稽古にいそしむ新吾に声をかけた。時代の家老として期待を受けている栄之進から声をかけられ新吾はうれしかった。

御前踏水が延期された。由姫の御不例ということであった。

だが、鉢谷十太夫は解せぬという。見舞に出かけた十太夫は姫に合うこともできずに帰されたのだ。

解せぬといえば石原栄之進もだという。十太夫と栄之進は剣の姉弟である。稽古をつけてほしいと言ってきた栄之進が約束を破り現れなかったのだ。今までにこんなことはなかった。

十太夫と新吾は曽根屋敷を訪ねた。仙之助の母・綾が応対に出た。

綾の出自は特別である。千早家という。藩主に直に意見ができるという元老格の家柄なのだ。だが、千早家は藩主家と昵懇でも政治にはかかわらないでいる。

家中が例外なく半知御借上となった。増上寺の改修のためという名目である。

仙之助は今回のこの措置におかしさを感じている。殿様らしくないのだ。

この曽根家の門前で斬り合いがあった。息絶えていたものは忍びのような装束を身につけている。

それを見た母の綾は家の中に運べと命じた。仙之助は仰天した。

実家の千早家を訪ね、甥の千早蔵人業亮に昨日の出来事を話していた。斬られたのは壮助だったと綾が言った。壮助は白十組の一員である。

こうした話をしているところに新吾が飛び込んできた。仙之助が何者かにさらわれた形跡があるという。

新吾は不審な男を尾行した。着いたのは浅羽外記の屋敷である。ここに仙之助が捕らわれていた。

新吾たちを助けだしたのは介添・赤沢安右衛門である。安右衛門は藩の影の隠密隊・白十組に属している。対する相手の頭目は結城瀬兵衛である。

江戸の藩邸。

藩主・吉長は一人の棋士と碁を打っていた。若い。天才棋士と呼ばれる土屋白楽である。

小姓の渋谷弥吾作は殿の言動が支離滅裂になっていることを気にしていた。増上寺修築の手伝いのために半知御借上をしてからである。

一体何が起きたというのか…

本書について

宮本昌孝
藩校早春賦
集英社文庫 約四三五頁

目次

学びて時にこれを習う
巧笑倩たり、美目盼たり
剛毅朴訥、仁に近し
幸いにして免るるなり
たれか学を好むとなす
知者は水を楽しむ
君子は下流に居ることを悪む

登場人物

筧新吾
曽根仙之助
花山太郎左
花山千代丸…太郎左の弟
鉢谷十太夫
お花
筧貞江…新吾の母
筧精一郎…新吾の長兄
筧助次郎…新吾の次兄
筧怱衛右衛門…新吾の父
恩田志保…新吾の隣家の末娘
恩田ぬい…志保の母
恩田真沙…志保の姉
曽根綾
木嶋廉平…若党
曽根佐喜…仙之助の姉
花山たき…太郎左の姉
渡辺辰之進
高田清兵衛…直心影流道場主
興津七太夫…直心影流道場主
河内守吉長…藩主
石原織部…国家老
石原栄之進…織部の倅
三次郎
渋田弥吾作…小姓
沢田源衛門…作事奉行
繁田市兵衛…御作事方組頭
蟠竜公
建部神妙斎
秋津右近
大山魁夷
伍助
川田六兵衛
夏目玄鶴
よしゑ
川辺魚伯
青野主馬
青野実千代
由姫
千早蔵人業亮…千早家当主
阿野謙三郎…千早家御用取次
赤沢安右衛門…武徳館教導方介添
宮部太仲…提灯番
浅羽外記
結城瀬兵衛
土屋白楽
森小右衛門…江戸留守居役
梅原監物…江戸屋敷の執政
滝田甲斐