小松重男の「迷走大将-上杉謙信」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

上杉謙信の一生を描いた小説。

小説部分と史料部分との考証が織り交ぜられており、楽しみ方が増える工夫となっている。史料部分では徹底的に軍記物がインチキであることを様々な証拠を元に例証している。このあたりは面白い。

例えば、軍記物として有名な「越後軍記」「北越軍記」には宇佐見定行という軍師が登場し、謙信を補佐しているが、架空の人物である。

同様に、これらの軍記で描かれている、守護代を巡りる兄晴景と景虎の間にあったとされた戦い。これも「越後軍記」「北越軍記」のフィクションだという。

そもそも、晴景がこの時には死んでいない物証があるのだから、あり得ないのだ。

第四次川中島の戦いを描き有名な「甲陽軍艦」も、どこまでが史実なのかわからない。合戦があったのは事実だが、どのような戦いだったのかは謎である。

啄木鳥戦法が本当にあった話なのか、そもそも、山本勘助という”軍師”がいたのかすら怪しいのだ。山本勘助に関しては、”山本勘助”といわれる人物はいたようだ。だが、”軍師”であったかどうかは定かでない。

個人的には、軍記物や歴史小説はフィクションであり、歴史事実とは異なると思って読んでいるので、あまり歴史考証が表に出すぎるのは興をそぐ。

もし、歴史人物の事実を知るつもりなら、私は小説ではなく、歴史学者の手により検証された論文なり学術書を読む。

小説は、こうした学者達の唱える説や、歴史史料の中から”小説として面白い要素”を選び抜き出したものであるべきと思っているので、作者があえて”歴史的事実と思われる出来事”を切り捨てても文句は言わない。小説として面白ければよいと思うからである。

だからといって、ものには限度があるので、歴史小説であまりにも荒唐無稽すぎるのも困るのだが…

さて…。

「もう書くのが厭になるほど輝虎叛かれつづけている。なぜだろう。」

この一文から始まる前後は上杉謙信の人生の中でも、読んでいて痛々しい。

そして、年齢を経るに従ってふつうは穏やかになっていくが、謙信は反対に怒りっぽくなっている。

あとがきでは、作者がなるべく史実に近いと思われる事績・言行をノートした物を医者にみせると、高血圧症、糖尿病、アルコール依存症、躁鬱気質が指摘されたという。

このあたりはとても興味深い。

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内容/あらすじ/ネタバレ

享禄三年庚虎(一五三〇)に上杉謙信は生まれた。生年に因んで虎千代と名付けられた。

八歳になった虎千代は守護上杉定実からの使いがきた。兄晴景もおり、元服させるというのだ。景虎と名乗ることになった。景虎は幼い頃から金津新兵衛を相手に箱庭合戦で戦評定を学んでいた。

景虎に養子の話が来たが、これを断ると、上杉定実も兄晴景も激怒した。そうそうに、景虎は金津新兵衛らとともに逃げた。逃げた先は栃尾城の本庄実仍の所である。これから七年、景虎は学問と武術の鍛錬に勤しんだ。

十六になった景虎。この頃にはすでに大酒飲みになっていた。本庄実仍の配下で酒豪のものは皆景虎の側近同然となっていた。

こうした中、晴景と景虎の間にいる兄が叛旗を翻した黒田秀忠に殺された。初陣だったが、景虎は揚北の国人を味方につけ、黒田秀忠を攻めた。

この戦いの中で、景虎と金津新兵衛は一人の女忍者を捕まえた。この女忍者を放ち、やがて自分の配下とする。名を清という。この戦いのあと、景虎は一生不犯の誓いをする。

再び黒田秀忠が翻意を示したときには、景虎は徹底的にたたきつぶし、越後の国人衆を震え上がらせた。同時に、自分が毘沙門天の化身だという風説を流した。やがて、これは徐々に広まっていく。

…景虎の動向を強く意識しているのは同族の長尾政景である。政景は守護代の地位を虎視眈々と狙っているのだ。

景虎を守護代に任命して頂きたいという動きが出てきた。つまり、今の守護代である兄晴景を更迭せよというのだ。

そして、渋々ながら晴景は守護代を景虎に譲り渡した。十九歳の時である。

そして、依然として長尾政景の動向は景虎を不安にさせるが、守護である上杉定実が死んだことによって国主となる。国主になったものの、越後全土に覇権を確立したわけではなかった。

こうした中、関東管領・上杉憲政が北条氏康に追われるようにして景虎を頼って逃げてきた。ここに、関東の北条家との対立が始まる。

一方、信濃の村上義清が武田晴信に敗北し、景虎の元に逃げ込んだ。すぐさま、反撃の軍をつれ景虎は晴信と対峙したが、今回は瀬踏みのようなもので終わった。

景虎には戦をするよりも大切な理由があったのだ。それは、今年中に上洛すると予告してあったからである。上洛は海路を取ることになった。

景虎の留守中に国ではごたごたが起きていた。土地を巡る争いである。帰国してからこの処理に窮していたが、さらに北条高広謀叛の報が届く。

景虎はこうしたごたごたが嫌になり、国主の座を投げ捨て隠遁生活を送るつもりで出奔してしまう。だが、家臣一同が景虎に懇願する形で国主の座に戻る。

そして、後に上杉憲政から関東管領の座を譲り渡される。

本書について

小松重男
迷走大将 上杉謙信
小学館文庫 約四六五頁
戦国時代 主人公:上杉謙信

目次

栴檀
雌伏
初陣
発心
血祭
擁立
帰還
国主
越山
信濃
上洛
内憂
連戦
転戦
聖戦
あとがき

登場人物

上杉謙信
金津新兵衛
金津以太知之介(鼬)
小島弥太郎
清(千草)…女忍者
若狭屋忠兵衛…舟運商人
本庄実仍
長尾政景
宇佐見定満
長尾晴景…兄
上杉定実…守護
上杉憲政…関東管領
村上義清
近衛前嗣…関白
天室光育…春日山林泉寺住職
門察和尚…常安寺住職
武田晴信

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