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風野真知雄の「大江戸定年組 第6巻 善鬼の面」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

前作で殺されたと思った鮫蔵が何とか生きていた。だが、心に深い傷を負ってしまい、再起には時間がかかりそうだ。その鮫蔵の過去が本作で語られる。

鮫蔵はかつて神谷久馬といった。八王子の山同心の家柄だ。

鮫蔵はまだ見習いの時、山同心の仕事を気に入っていたが、父は山同心ではなく町場の地位を求めた。

何事もお前のためだという父に、鮫蔵はやがて父がいる限り縛られつづけると思い始め、ついに父を斬ってしまう。

このことが強い後悔となって鮫蔵を苦しめていた。

父を殺して逃げてきた鮫蔵を拾ってくれたのが岡っ引きの地蔵の権助だった。こうして鮫蔵は岡っ引きへの道を進むことになる。

前作で鮫蔵はまさかと思われる人物に刺されて瀕死の重傷を負う。

この時の相手が原因で鮫蔵は心に深い傷を負ったようである。

鮫蔵は一体誰を見てしまったのか?

シリーズは、だんだんと「げむげむ」の核心へと近づいてきている。鮫蔵が再起すれば一気に片が付くだろうが、少々時間がかかるようだ。
とはいえ、本作でもヒントがいくつかでている。

「げむげむ」の最初の教祖は娘だったが、十七の時亡くなった。そして二代目はその父親だという。

この情報をもたらしたのは入江かな女。どうやら以前よりもげむげむにのめり込んでいるようだ。

さて、本作で「げむげむ」に近い人物が現われる。驚くべきことに、馴染みの人物だ。この人物が二代目の教祖なのか?

鮫蔵が見た人物がこの人なら、鮫蔵が心に深い傷を負うほどのショックを受けるのだろうか?

疑問がいっぱい残る展開である。

そして、心配なのは入江かな女。次作以降で初秋亭の三人をひどく心配させる展開が待ち受けていることだろう。

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内容/あらすじ/ネタバレ

しまがら屋の与左衛門が初秋亭を訪ねてきた。しまがら屋は日本橋の室町二丁目にある小間物問屋である。与左衛門の兄は藤村慎三郎、夏木権之助、七福仁左衛門らとともに大川で泳ぎ回った仲間の与一郎だった。

与左衛門の相談とは、倅がお面を外さないので困っているというものだった。能の面で、白塗りののっぺりした女の面である。

鮫蔵が行方知れずになっている。一月ほど潜入することはあっても十日に一度くらいは戻ってきていた。ここまで途絶えるのは珍しい。

初日は藤村と夏木でしまがら屋の若旦那・三之助をつけた。友達らしき若者に声をかけられ、人助けだといっている。

職人が三之助のつけている面を見て驚いていた。猿沢月斎という有名な面師の善鬼の面だという。ちょっとやそっとじゃ手に入らない代物らしい。

翌日は藤村と仁左衛門があとをつけた。時の鐘がある石町あたりで、三之助は鼻の権六と呼ばれる遊び人に声をかけられている。

それをみて藤村は近づいた。三之助は藤村達がおやじから頼まれたことを見抜いた。

わけを聞くと、目の前で爺さんが攫われたのだという。おそらく猿沢月斎の面に惚れ込んだ豪商あたりが拉致したのだろう。やがて亀屋の隠居の名が浮上してきた。

鮫蔵は苦しい息の下で、見たなと言った。当時神谷久馬といった鮫蔵は周五堂先生が捕らえられたときのことを言っていたのだ。父はいつもお前のためといっていた…。

鮫蔵は寺に助けられていた。

藤村達は鮫蔵を探していたが、何の手がかりもなかった。いなくなる前に浅草に通っていたという。藤村はまだいるような気がしている。

幽霊駕籠というのが噂になっている。客ではなく、駕籠屋の方が幽霊なのだという。

この幽霊駕籠に仁左衛門が出くわした。泡を食ったが、よくよく考えると本物の幽霊ではない気がする。なんで、そんなことをしたのか?
仁左衛門と夏木が探ってみることになった。

二人は幽霊駕籠に出くわした場所に行った。銀貨鋳造所の銀座の裏手だ。この周辺をまわっていると、藤村の倅・康四郎に出くわした。

藤村は待乳山聖天社の近くに来ていた。そこの小さな神社らしい祠に「下無」と書かれた絵馬を見つけた。鮫蔵はげむげむを追いかけていた。背中に寒気が走った。

康四郎は芸者の小助と出会い茶屋にいた。この時、幽霊駕籠の話が出て、小助は荷物を運びたかったのかなといった一言が康四郎にあることを閃かせた。

矢野長右衛門が夏木を訪ねてきた。前お浜御殿奉行の桑江頼母が辞めたにもかかわらず毎日お浜御殿に出てきているので困っているという。

夏木が桑江に会うとぼけているわけではないらしい。ただ、何かやり残した仕事があり、後任に任せたくなく、自分で処理をしたいというようだ。だが、何をやり残したのが思い出せないでいるらしい。

その桑江頼母は、悪い花を咲かせる種を蒔いたという。その花は姫百合だという。黄色い姫百合を植えるとあるじを失うという。だが…。

藤村がようやく寺にいる鮫蔵を探し当てた。鮫蔵は何者かに刺されていた。そして心にも傷を負ったらしい。

寿司屋の三八が顔を出した。餌をつけずにずっと釣りをしている野郎がいて気になってしょうがないから訊いてくれという。できれは追い払ってもらいたいとまでいった。

夏木と仁左衛門がこの男を見ていた。なるほど、糸には餌も針もつけていない。それに何をしているのかが皆目見当がつかない。そう思っていると、その男は慌てたように立ち去っていった。一体何をしているのだ?

やがて夏木が男が見ていたものに気がついた。

医者・寿庵の近くで評判を取っている幸渦堂民斎。その腕が本物かどうかを確かめる羽目になってしまった。藤村がその役に当る。

腕は良いようだが、藤村は何かが気にかかる。それを鮫蔵の前で話していると、反応の無かった鮫蔵がぽつりと言った。虹色の雛。藤村はそれで思い出した。

本書について

風野真知雄
善鬼の面 大江戸定年組6
二見文庫 約二五五頁
江戸時代

目次

第一話 善鬼の面
第二話 幽霊の得
第三話 迷信の種
第四話 水辺の眼
第五話 創痍の鮫

登場人物

藤村慎三郎…元北町奉行所定町回り同心
夏木権之助…旗本の隠居
七福仁左衛門…町人の隠居
おさと…七福仁左衛門の若い女房
耳次…七福仁左衛門の倅
鯉右衛門…七福仁左衛門の倅
おちさ…七福仁左衛門の息子・鯉右衛門の嫁
藤村康四郎…藤村慎三郎の倅
小助…深川芸者
入江かな女…俳諧の師匠
安治…「海の牙」の主
鮫蔵…深川佐賀町の岡っ引き
長助…下っ引き
寿庵…医師
およう…寿庵の亡き娘
与左衛門…しまがら屋の主
三之助…与左衛門の倅
弥平…岡っ引き
猿沢月斎…面師
楓…月斎の孫娘
鼻の権六
亀屋の隠居
矢野長右衛門…お浜御殿奉行
桑江頼母…前お浜御殿奉行
又吉…お浜御殿の庭師
梅吉…植木職人
百合
三八…寿司屋
仙右衛門…油壺屋
申蔵…油壺屋の手代
若菜…旗本・山中万太郎の息女
幸渦堂民斎…医者
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