井上祐美子の「臨安水滸伝」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

南宋の臨安を舞台に、岳飛将軍亡き後、その隠し財産を巡って繰り広げられる権力闘争とそれに巻き込まれる夏家の風生と資生たちの話。タイプの違う夏家の面々のキャラクター勝負という感じであろうか。また、武侠小説という側面もある。

さて、水滸伝の冠が着いているので、数多くの登場人物があるのかと思いきやそうでもない。

題名のわりには登場人物の数が少ないので、すんなりと読めるというのが、いいところではないかと思う。なので、かえって、水滸伝の冠をつけた理由がわからなかった。

ただし、終わり方がある意味中途半端、良く言えば続きがあるような感じなので、シリーズ化することによって水滸伝として成立していくのかもしれない。

それとも、水滸伝の冠というのは、例えば日本を舞台にした歴史小説や時代小説で「○○太平記」という小説が多いのと同じような意味合いなのだろうか。

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内容/あらすじ/ネタバレ

風生の視線の上、愛蓮楼という妓楼の屋根の上で喧嘩が起きていた。片方は風生も知っている。従兄の資生だ。

風生の側には雲裳がおり、この風生の姿を見て一人の少年が駆けつけて、今回の騒動の詫びをした。基生という少年だ。

今回の騒動の発端は仔猫だという。仔猫が逃げたのだ。それを捕まえたら報奨金を出すというのだが、資生は夏家の当主であり、金に不自由しているはずがない。資生が動いたのは秦檜という宋国で一番の権力者の名を聞いたためであった。

その資生が相手しているのは、どうやら北の出身のようだ。

宋の都・開封が金国に攻められ、皇帝も太上皇も、皇族なども北へ連れ去られてしまった。その後臨安が首都となることになる。

開封滅亡後二十年あまりの現在、紹興十九年(一一四九)。臨安の人口は百万近くを数えた。

金は宋が新たに擁立した皇帝を認めなかった。金軍が攻め込んできたが、これを激戦の末に侵攻を食い止めたのは、岳飛、韓世忠らを中心とする将軍たちだった。

その後両国の間に和議が結ばれた。この時に脚光を浴びたのが秦檜、字を会之という。

岳飛が殺されたのは三十九歳の時だった。その翌年和議が結ばれた。和議から数えて今年で八年目となる。

資生と喧嘩していた相手は、三日前に臨安に着いたのだという。男は風生と資生の関係を不思議なものとして捉えていた。

資生を従兄と呼び、夏家という水運業を営んでいる家の当主であるというのだが、年下の風生が資生を叱り、従わせている。資生は風生の方が嫡流だからだという。

男は李大と名乗った。人を探しにやってきたという。

張太監という老人が風生を訪ねてきた。軽いやり取りをしたあと張太監は去った。同時に李大と名乗った男も姿を消していた。

風生は考えた。李大は自分たちか、張太監の何れかが気にくわなかったのだろうと。いわくがありそうだ。

水門の近くで娘と子供を資生と基生が助けた。追ってきているのは、近頃何かと夏家と対立するようになってきた崔家の連中だ。

助けた娘はかつて夏家にいた林四娘だった。林四娘が連れていた子供はどうやら目が見えづらくなっているようだ。この子供の治療法と、父親を捜すために臨安に戻ってきたのだという。子供は公孫小環という少女である。

風生を張太監が呼び出した。岳飛を知っているかとたずねてきた。その岳飛の隠し財産があるという噂がある。それの真偽を確かめて欲しいという。

資生はその話を聞き、まさか、目をつけられたのか?と風生に尋ねた。

風生は最初から冤罪をきせるつもりで仕掛けられた罠だと考えていた。

臨安の郊外に天竺という場所がある。ある寺から太夫人が智海和尚と一緒に出てきた。途中で目つきの悪い男が率いる一団とすれ違った。

智海和尚は寺にいる男を訪ねるつもりだなと感じた。寺にいる男は李大と名乗った。

風生と資生は愛蓮楼に来ていた。崔家から申し入れがあったのだ。

この二人が楼に着くと、そこには秦檜がいた。仔猫を受け取りに来たのだ。秦檜がそこにいたのは崔家の件とは全く関係がなさそうだった。
その後、崔従良が現われた。要件は一つ。小環をわたせという。

李大が現われた。娘を引き取りにきたというのだ。娘とは小環のことだ。李大は公孫文卿だということを風生は知っていた。公孫文卿は秦檜に強い怨みを持っているらしい。

公孫文卿は風生が岳飛の側でずっと戦ってきた男の忘れ形見であると知り驚愕する。それなら、なぜ秦檜を討とうとしないのかと詰め寄った。

これに対して風生が答えた。人々は戦を欲していない。秦檜を殺せば戦が起きる。

公孫文卿は夏家の屋敷内にある一つの部屋に入れられた。

その夜、侵入者があった。強盗に見せかけ、夏家の人間を殺傷し、公孫文卿を巻き添えにするつもりのようだ。

このどさくさの中、公孫文卿は再び逃げた。

風生は張太監からの話しを断った。するとすぐに崔家から訴えがあったと切り出してきた。役人が入り込み、風生が捕まってしまう。

これを事前に予期して、風生は夏家の皆を逃していた。だから、夏家の屋敷に誰もおらず財宝もないことを知った張太監はおろおろした。

風生は拷問を受けたが、助け出したのが意外にも秦檜だった。

秦檜は風生が岳飛軍の残党であることを知っていた。知りながら見逃していたのだ。それは大勢に影響がないと判断したためだという。

そして、公孫文卿の後ろで本当に糸を引いている人物と、なぜ秦檜が狙われなければならないかと風生は悟った。

資生が公孫文卿を見つけた。風生が秦檜の屋敷で人質になっているとつげると、今夜秦檜の屋敷の外にいろという。一体何をするつもりなのか。

公孫文卿は秦檜の所に出頭してきたのだが、それは見せかけで、騒動を起こし、その間に資生たちが風生を助け出した。代わりに公孫文卿は捕まった。

公孫文卿が処刑されるという。風生たちはこれを助け出す算段を考えていた。

この中、雲裳が風生を探しているという話しが伝わってきた。雲裳は秦檜から紙片を預かっていた。そこには「會」の一字が記されていた。
風生はこの一字から、ある大胆な計画をひねり出した。

本書について

井上祐美子
臨安水滸伝
中公文庫 約三七五頁
南宋時代 12世紀

目次

序章
第一章 かりそめの都
第二章 波乱
第三章 暗夜
第四章 童夫人の猫
第五章 天地人

登場人物

夏風生
夏資生…従兄
夏基生…夏家の遠縁になる。
太夫人…風生の母
薛…執事の柳老人の妻
小七
智海和尚
董医師
林四娘
公孫小環
飛将軍…猫
花娘…猫
烏娘…猫
王雲裳
公孫文卿(李大)
張太監
崔従良
秦檜
快山…智海和尚の師

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