この短編集が書かれたのは池波正太郎が直木三十五賞を受賞したすぐ後くらいです。
｢冬の青空｣｢小泉忠男の手｣｢土俵の人｣の三作は昭和の時代を舞台にしたもので、池波正太郎の作品の中では数少ない現代の市井を描いた作品です。
｢闇討ち十五郎｣では小杉十五郎という浪人が登場します。設定は暗殺を金で請け負う殺し屋であり、池波作品のなかで人気の｢仕掛人・藤枝梅安｣の設定によく似ています。
しかも、梅安シリーズの重要な登場人物として小杉十五郎という浪人がいます。
この作品の小杉十五郎とは細かい点で人物設定は異なるのですが、恐らくこの作品の小杉十五郎が後年の梅安シリーズの小杉十五郎のモデルになったものと思われます。それ程によく似ています。
剣豪もの
「剣法一羽流」については、同じテーマ（「諸岡一羽斎」関係）で藤沢周平も書いているので合わせて読むと面白い。
- 決闘の辻(藤沢版新剣客伝)
- 秘伝（「剣客群像」に収録）
その他の池波正太郎の剣豪もの
内容/あらすじ/ネタバレ
そろばん虎之助
藩随一の経理の土屋虎之助は、家老の安達隼人正から絶大な信頼を受けていた。そろばんは得意でも剣術には自信のない虎之助だが、その類い希な経理の才を生かし、藩の中枢に関わる事柄を把握していた。
しかし、その実の正体は幕府直属の隠密であった。その頃、家老の安達隼人正を追い落とすために御為派と称する家老・石黒兵部の側の人間が安達隼人正を狙っていた。
そして、この御為派が安達隼人正を襲う。信頼を受けていた虎之助はこの事態に、幕府の隠密としての仕事を遂行出来るのか。
闇討ち十五郎
小杉十五郎は暗殺を頼まれる。ある場所で、通りかかる駕籠に乗る人物を斬って欲しいというのだ。十五郎は約束通り、その場所で待ち受け、斬りかかろうとするが、同行していた坊主に一喝される。
その坊主は十五郎がかつて世話になった隆心和尚だったのである。暗殺に失敗した十五郎は、逆に追われる身となってしまう。
冬の青空
井上圭吉は喧嘩っ早いのが玉に瑕である。雇い主のハワードがアメリカに一時帰国することになり、この期に、栗間あき子と旅行に出かける。旅先の旅館で、マッサージ師の谷口が客に暴力を受けているのを見て、圭吉は助けに入る。
谷口は圭吉に感謝し、そのお礼にマッサージを施してくれる。このマッサージの間の会話で、谷口が、かつて圭吉が世話になった谷口兵曹の息子であることが分かる。圭吉とこの谷口兵曹とには深い因縁があり…
小泉忠男の手
小泉忠男は歯科医として評判を取っていたが、万引きの現場を戦友の石原乾吉に見られてしまう。万引きは小泉忠男の病気みたいなもので、戦時中もこの万引きの現場を石原乾吉にみられ、黙認してもらったことがある。
しかし今回、石原乾吉は小泉忠男を脅した。石原は生活に苦慮していたのである。
土俵の人
あき子は四股名を淸見山といい、本名を山口慶治という力士と言い交わした旅館の女将である。淸見山は負け越せば十両転落という幕内下位の力士である。
今場所で負け越せば十両になり、そうすれば引退して旅館を継ぐ約束であった。最後の場所と思って土俵に上がる淸見山であったが…
仇討ち街道
波合の半蔵は娘に乱暴を働こうとする浪人を懲らしめようとするが、逆に腕を切り落とされてしまう。この浪人は天野伝五郎といい、小西精太郎の父親を殺害してしまった仇持ちであった。
天野伝五郎は小西精太郎に剣術で負けることは無いと自負していたが、追われる身であることには変わりない。この天野伝五郎を、腕を切り落とされた半蔵が見かける、そして、半蔵が取った行動は…
剣法一羽流
諸岡一羽斎の秘伝書を弟子の根岸兎角が盗み、逃げ出した。同じ弟子の岩閒小熊と土子泥之助はこのことに憤りを隠せないが、一羽斎は無視しろと言う。
土子泥之助は師匠の言う通りにするが、岩閒小熊は納得がいかない。岩閒小熊は秘伝書に書かれた内容が気にかかって仕方がない。やがて師匠の諸岡一羽斎が秘伝書の内容を伝えずに亡くなってしまうと、根岸兎角を探し出して、秘伝書を取りもどそうと考える。
本書について
目次
そろばん虎之助
闇討ち十五郎
冬の青空
小泉忠男の手
土俵の人
仇討ち街道
剣法一羽流
登場人物
そろばん虎之助
土屋虎之助
安達隼人正…家老
久江…隼人正の妹
服部助九郎
石黒兵部…家老
闇討ち十五郎
小杉十五郎
赤大黒の甚七
隆心…和尚
冬の青空
井上圭吉
栗閒あき子
ハワード
谷口…理療師
小泉忠男の手
小泉忠男
朋子
石原乾吉
土俵の人
あき子
淸見山(山口慶治)
仇討ち街道
波合の半蔵
天野伝五郎
小西精太郎
剣法一羽流
諸岡一羽斎
根岸兎角
岩閒小熊
土子泥之助
