池波正太郎の「あほうがらす」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

赤穂浪士もの関係が「火消しの殿」「元禄色子」。

真田騒動関連が「運の矢」。

さて、注目したいのが、「鳥居強右衛門」「つるつる」の二つの短編。

「鳥居強右衛門」は「忍びの風」でも大幅にページを割かれて書かれている。「忍びの風」は忍びが主人公であるので、この短編とはちょっと違った部分があるのだが、そこがまた面白く出来上がっている。

この短編は、「忍びの風」を書くための習作だとして考えてよいのではないか。

また、「つるつる」も「男振」という形で昇華されている。「つるつる」の設定を一部変え、池波正太郎らしく上手く料理されている。この「つるつる」も習作として捉えてよい作品だと思う。

池波正太郎は、こうして短編で一度描いた世界を再び長編に書きおこして別の世界を描くことをするが、それぞれが、面白く読めるのはさすがである。この短編集で気になった方は、それぞれの作品を昇華させた長編の方も読んで見ては如何だろうか。

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内容/あらすじ/ネタバレ

火消しの殿

沢口久馬が播州・赤穂藩に児小姓として奉公できたのはその美貌故だった。だが、久馬はそうとは知らないでいる。まさか、殿さまの寝所へはべる役目が奉公の主要目的だとは。

屋敷にあがったその日の深夜。邸内に番木・太鼓の音が鳴り響いた。火事だの声に久馬は飛び起きた。まだ邸内がよくわかっていない久馬は右往左往する。その内にこれが火消の訓練であることが分かった。火消の好きな殿様だったのだ。

運の矢

天野源助松代十万石、真田伊豆守の家来で勘定方に属していたが、小心者で通っていた。

ある冬。天野源助に思わぬ悲劇が直面する。愛妻が急死してしまったのである。落胆が激しく、自殺を度々図ったが上手くいかない。そうこうしているうちに、今度は父が急死した。

それも藩士の森口庄五郎というものに殺されてしまったのだ。天野源助は敵討ちにでるが、妙にさばさばしている。それは、敵の森口庄五郎に会えば、己も死ねると思っているからである。

鳥居強右衛門

長篠城は武田勝頼軍に包囲されていた。城主は若い奥平貞昌。城は徳川軍の到来を待っている。だが、完全に包囲されているため、様子が分からない。城内では降伏した方がいいのではないかという意見も出始めていた。

奥平貞昌はこの包囲網を抜け出し、苦境を徳川家康に知らせてくれるものはいないかと問いかけた。それに答えたのは鳥居強右衛門だった。

荒木又右衛門

妻・みねの弟・渡部源太夫が河合又五郎に殺された。みねは悲観したが、荒木又右衛門はただの殺傷事件だけでは終わらないだろうと思っていた。

親・兄の敵討ちは認められているが、それ以外は認められていない時代である。みねの心境は分かるものの、荒木又右衛門はどうすることも出来なかった。

しかし、幕府の旗本達がこぞってかくまっていた河合又五郎を幕府が追い放ちを命じ、渡部数馬が討ち手として藩から選ばれれば、必然と状況は変わってくる。

つるつる

矢島市之助の髪がごそりと抜け落ちたのは、若君と相撲をしているときであった。やがて、ほとんど髪が残らなくなってしまった。

ある日、若君がこれを見てからかったため、矢島市之助は逆上して若君を殴りつけた。若君の所行が褒められたものではなかったため、切腹は免れたが、家督相続と妻帯を許されなくなった。

その市之助が慰みに始めたのが大工仕事だった。

あほうがらす

宗六が十年ぶりで兄の万右衛門を見かけた。昔の宗六は兄を困らせたので、久方にあっても信用はない。この宗六。表稼業を持っているが、裏ではあほうがらすを生業としている。一種の売春の斡旋屋だ。

だが、信念をもったあほうがらすを自認している。

金で女が幸福をつかめるように、最後まで指導を行う。そのために地道な稼業を持ち、金には欲を出さないのだ。

元禄色子

相川幸之助は男色を売る色子である。その幸之助が相手する少年武士を恵比寿屋市兵衛が連れてきた。この少年、赤穂浪士の大石内蔵助の息子・主税であった。

内蔵助は十五で死ぬ主税のために、女の肌身を抱く楽しさを味わわせてやりたいと恵比寿屋に頼んだのだった。それが、まずは幸之助を、それから女の肌をと考えたのだった。

だが、主税は幸之助と再び合う約束をしたと顔を赤らめる。やがて、この二人の間には愛が芽生え始める。

男色武士道

鷲見左門は佐藤勘助から尻奉公の嘲笑を浴びせられた。主君の小姓を勤めている左門は主君の寵愛が深い。その殿の男色の相手は勤めていると言われたのだ。これにはさすがの左門も激怒したが、腕にはからっきし自信がない。口惜しくもどうすることもできない。

すると、千本九郎が通りかかった。この九郎に事情を話すと、左門同様に殿も馬鹿にされたことになるのだから、佐藤勘助を斬れという。

夢の茶屋

矢口仁三郎が飯沼新右衛門を見かけたのは、夢の茶屋という一種の売春宿であった。新右衛門はその茶屋に煙管と置き忘れたのに気がついたが、それを矢口仁三郎が持って現れた。そして、金をせびった。

飯沼新右衛門はどうするか迷っていた。そして、夢の茶屋を紹介してくれた山城屋長助に相談に行く。

狐と馬

横山馬之助は夏目内蔵助の家来であった。馬之助はぼんやりして失敗ばかりしている。ある日、馬之助の様子がおかしかった。

夏目内蔵助が会うと、天日という狐が馬之助の体を借りて語り始めた。その天日が養生のために馬之助の体を借りたいと内蔵助に申し出る。その代わりに、馬之助を変えてみせるという。

稲妻

医者の水谷宗仙は親の敵として狙われる身である。その宗仙にお喜代が声をかけた。お喜代は宗仙がまだ国許にいた頃、見知っていた人間である。

宗仙は青ざめた。だが、お喜代はある頼み事を聞いてくれれば、黙っているという。その頼み事とは毒薬を一服渡して欲しいというものである。

本書について

池波正太郎
あほうがらす
新潮文庫 約三七〇頁
短編集 江戸時代
真田騒動、赤穂浪士もの含む

目次

火消しの殿
運の矢
鳥居強右衛門
荒木又右衛門
つるつる
あほうがらす
元禄色子
男色武士道
夢の茶屋
狐と馬
稲妻

登場人物

火消しの殿
 沢口久馬
 浅野内匠頭長矩

運の矢
 天野源助
 森口庄五郎
 原八郎五郎

鳥居強右衛門
 鳥居強右衛門
 奥平貞昌
 武田勝頼

荒木又右衛門
 荒木又右衛門
 みね
 渡部数馬
 渡部源太夫
 河合又五郎
 河合甚左衛門
 服部平左衛門

つるつる
 矢島市之助
 伊助

あほうがらす
 宗六
 万右衛門
 彦太郎

元禄色子
 相川幸之助
 大石主税
 恵比寿屋市兵衛

男色武士道
 鷲見左門
 千本九郎
 佐藤勘助

夢の茶屋
 矢口仁三郎
 飯沼新右衛門
 山城屋長助
 聖天の吉五郎
 才兵衛
 孫六

狐と馬
 横山馬之助
 夏目内蔵助

稲妻
 水谷宗仙
 お喜代

池波正太郎の真田もの

池波正太郎 池波正太郎の真田もの。「真田太平記」を筆頭にして、数多くの「真田もの」が書かれています。

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