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畠中恵の「しゃばけ」第1巻を読んだ感想とあらすじ

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しゃばけ しゃばけシリーズ 1 (新潮文庫)
新潮社
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しゃばけ (新潮文庫) [文庫] [Mar 28, 2004] 恵, 畠中
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覚書/感想/コメント

第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作品

題名の「しゃばけ」は「娑婆気」から。俗世間における、名誉・利得などのさまざまな欲望にとらわれる心(国語大辞典「言泉」小学館より)ということである。

人気シリーズの第一作であり、人気が出るのがとても納得できる作品である。

主人公は長崎屋の若だんな一太郎。

長崎屋は江戸十組の株を持つ廻船問屋の大店である。長崎屋は自身の菱垣廻船を三艘持っている。

長崎屋にはもう一つある。薬種問屋だ。若だんなが病弱で度々死にそうになることから、方々から薬種を集めているうちに商いが大きくなって、一本立ちさせたものである。一太郎が任されているのはこちらの方だ。

その一太郎を側で守っているのが二人の手代である佐助と仁吉。五つの頃、佐助と仁吉の二人は祖父に連れられてきた。

以来、二人の態度は一貫している。一太郎がとにかく第一で、二からが無いのだ。祖父に連れられてきてから、一太郎の周りには夜となく昼となく不可思議な者達が添うようになっている。

佐助は母のおたえよりも長く、病で寝込みがちな一太郎に付き添っていた。

仁吉は一太郎にはいない兄がわりでもあり、父の代わりでもあり、爺やそのもので、薬種の商いを切り盛りしてもらっている片腕だ。

佐助と仁吉は人の姿をしているが人ではない。佐助は犬神で、仁吉は白沢(はくたく)だ。

犬神は、西日本に広く分布する犬霊の憑き物で、今一つありがたくない妖のようだ。近畿地方より東の地域にはほとんど見られないらしい。

つまり、舞台となる江戸にはとても珍しい妖ということになる。本シリーズでは「力」を象徴しており、高位の妖という設定になっている。

白沢(はくたく)の方は、人語を解し、万物に通暁している中国の伝説の神獣。

徳の高い治世者の世に現れ、病魔を防ぐ力があると信じられていた。

逸話として、黄帝が地方を巡っている際に白沢が現れ、邪鬼悪神を尋ねると一万一千五百二十種について語ったと言われている。黄帝はその全てを書き写させ、災害に遭わぬように天下に示したと言われているそうだ。

姿は、人間の顔をした牛と言われ、顔には第三の目が眉間に縦についており、背中には四本の角と六個の目があると言われている。

本シリーズでは「知」を象徴しており、高位の妖という設定である。

人気が出るのはとても納得できる作品であるが、最後に物足りなさの残る作品でもある。この物足りなさは、ある時点からの展開に起因しているのだが、展開を変えていれば、最後がスッキリと上手くまとまったように思う。実に惜しい。

最後に補足。本作は第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞している。この賞は受賞形態が若干分かりづらく、優秀賞というのは、他の賞でいうところの佳作相当に当たる。最も出来のよい作品に与えられるのは「大賞」である。

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内容/あらすじ/ネタバレ

五つをとうに過ぎた時刻の闇の中。若だんなは帰りが遅くなり、仁吉たちに外出が分かってしまうことを危惧していた。その若だんなに声をかけてきたのは付喪神の鈴彦姫だった。

その鈴彦姫が血の臭いがしてきたという。昌平橋近くの湯島聖堂付近だ。

すると、背後から「香りがする…する、する…」といいながら若だんなを襲ってきた…。

命からがら逃げた若だんなを心配して手代の佐助と仁吉が迎えにきていた。佐助は犬神、仁吉は白沢であり、二人とも人の形はしているが妖(あやかし)だ。

血の臭いを嗅ぎつけた仁吉が若だんなに怪我でもあるのではないかと心配した。若だんなは一太郎という。だめだと言われていた夜の外出をしたうえ、物騒な者に出会ってしまったのだ。二人の機嫌の悪さがひしひしと伝わってくる。

家に戻ると一太郎の代わりとなっていた屏風のぞきが身動きできない状態で捕まっていた。屏風のぞきの身代わりは以前から仁吉と佐助にはばれていたようだった。

若だんなの一太郎は寝る前に袂にある書付を握りつぶした。明日、佐助たちに見つからないように火にくべなくてはならない。

一太郎は妖たちが側にいることが、尋常でないことは分かっている。だが、なぜ自分の側に彼らがいるのか、詳しい話を聞こうにも、祖父は他界をして聞けなかった。

日限の親分こと岡っ引きの清七が一太郎を訪ねてきた。昨日の事件のことを知らせに来たのだ。一太郎の予想通り殺されていたのは職人だった。大工の徳兵衛というらしい。だが、一太郎が見たのと違う点が一つあった。それは首が切り落とされていたというのだ。

清七が暇を告げたあと、佐助がやってきて、例のものを積んだ船が到着したという。不老長寿の薬として珍重されてきた木乃伊だ。

すぐそばにある菓子屋の三春屋に一太郎は向かった。その倅の栄吉は一太郎の幼馴染みで、三春屋の跡継ぎだ。菓子作りは下手だが、菓子作りは嫌いではないらしい。

一太郎が栄吉に会いに来たのは、栄吉に調べごとをしてもらっていたからである。

殺された大工の徳兵衛の件で岡っ引きの清吉が一太郎を訪ねてきた。徳兵衛の道具がばらばらで売られていたというのだ。なぜそんなことをしたのか、一太郎は疑問に思った。

薬種問屋長崎屋の方に特別な薬を求めに来た客がいた。木乃伊のことを言っているようだ。だが、その身なりを見て仁吉も若だんなも戸惑った。

店に通すと、男は「間違いない…この香りだ…間違いない!」と独り言を言う。だが、男は木乃伊を見て「違う!これじゃない!」とわめきだした。そして男に仁吉がとばされ気を失ってしまった。こんなことは初めてのことである…。

襲ってきたのは長五郎というぼてふりだった。この長五郎が大工の徳兵衛を殺したようだ。長五郎は徳兵衛と顔見知りだったようだ。

長五郎は殺してしまった徳兵衛を生き返らせたくて、秘薬を求めて長崎屋に来たというのが役人に見方のようだが、そもそも人を生き返らせる秘薬なんてものがあったら瓦版で大騒ぎのはずだ。一件筋の通った考えだが、一太郎は納得していない。長五郎は何を求めに来たのだろうか…。

若だんなの姿が見えなくなった。皆がおろおろしている中、昌平橋の近くで薬種屋が殺されたという知らせが飛び込んできた。

仁吉は栄吉が何かを知っていると気づき詰め寄った。すると一太郎は松之助という兄のことを気にしており、その調べをしていたというのだ。松之助は父・藤兵衛が外に産ませた子であった。仁吉はそれで合点がいった。

殺されたという薬種屋は一太郎ではなかった。

また薬種屋が殺された。一体なぜ薬種屋ばかりが狙われる?それに捕まった下手人は、一様に薬の話ばかりをするなどの、妙な行いが目立つ。一太郎は人ならぬ妖が関わっているのではないかと考えた。そう考えれば辻褄の合う点が多いのだ。

殺された大工の徳兵衛の道具の行方が皆分かった。その中に墨壺だけが入っていなかった。徳兵衛が無くしたのは墨壺のようだった。

その墨壺に関して、探索に当たっていた妖たちが同情を寄せるものがあった。もうすこしで付喪神になれそうな古い墨壺があったのだが、ひどく壊れており、付喪神になれそうにないというのだ。

栄吉が刺された。栄吉を刺したのは武家で、近づいてくる時に、香りがする、する、お前、持っているんだろうと言ってきたのだという。一太郎はもしかして栄吉は自分と間違われて切られたのではないかと思った。

どういうことだろうと仁吉に詰め寄っていたところ、客が来たという。見越の入道という妖で、佐助や仁吉よりも上位に位置する妖のようだ。一太郎はそんな妖を初めて見た。

見越の入道は皮衣の頼みでやってきたという。皮衣は一太郎の祖母ぎんのことであった。ぎんの本性は妖で、齢三千年の大妖だという。一太郎に妖たちが付いていることや、妖の存在をすぐに分かるのは、その血を受け継いでいるからのようだ。母のおたえも一太郎と同じく妖は分かるのだそうだ。

そこまで話して、見越の入道は本題に入ってきた。それは一太郎の出生の秘密と、今回の薬種問屋殺しの事件との関連性であり、今後の一太郎の行方を左右する大事な用件だった…。

本書について

畠中恵
しゃばけ
新潮文庫 約三四〇頁
江戸時代

目次

暗夜
妖(あやかし)
大工
人殺し
薬種問屋
昔日
所以
虚実

登場人物

一太郎(若だんな)
仁吉(白沢)
佐助(犬神)
おたえ…一太郎の母
藤兵衛…一太郎の父
おくま…女中
栄吉…一太郎の幼馴染み、三春屋の倅
お春…栄吉の妹
屏風のぞき…付喪神
鳴家…小鬼、妖
鈴彦姫…付喪神
野寺坊…妖
獺…妖
蛇骨婆…妖
見越の入道…妖
皮衣(ぎん)…一太郎の祖母
清七…日限の親分、岡っ引き
正吾…下っ引き
源信…一太郎掛かり付けの医者
徳兵衛…大工
長五郎…ぼてふり
治助…左官
升田屋…札差
松之助…一太郎の兄