吉川英治の「黒田如水」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

講談的というか、実に大仰な部分があるのも吉川英治の特長なのかもしれない。だが、その分だけ各人の感情の起伏が上手く表現されているように思える。

本書は題名こそ「黒田如水」となっているが、如水と名乗る前の黒田官兵衛孝高を描いている。吉川英治は官兵衛を信義に篤い人間として描いており、そのため、青年武将らしい一途な側面が表現されている。

後年の腹の読めぬ、ある種陰湿的な如水の性質を嫌ったのかもしれないが、その面影はあまりでてこない。

本書の見どころの一つは、竹中半兵衛重治との友情であろう。この半兵衛との友情には生臭い損得勘定などはない。

とても清々しい友情関係なのである。そして、最大の見どころは、牢に押し込められた官兵衛救出の場面であろう。

さて、本書の冒頭で吉川英治は「三人寄れば文殊の知というが、それは少なくとも一と一が寄った場合のことであって、零と零との会合は百人集まっても零にすぎない。」と述べている。

シニカルな文言であるが、後年の官兵衛、藤吉郎、半兵衛がいた羽柴軍の強さと、冒頭の小寺家の迷走が対比される印象的な前ふりとなっている。

ところで、本書の中では、半兵衛が藤吉郎に初めてあった席で、扇での言葉のやりとりがされる場面がある。官兵衛から藤吉郎したためた文言と、藤吉郎の代理として半兵衛が官兵衛にしたためた文言である。

決して難しい言葉ではないのであるが、現在の小説家であれば、これらの文言の解説を加えるところであろう。

しかし、吉川英治は一切解説を加えていない。他にもこうした場面がある。こうしたところに小説の時代の流れを感じてしまった。

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内容/あらすじ/ネタバレ

評定の間で小寺政職と小寺家の重臣が集まって評議を行っている。小寺家の向背を決める評議である。つまるところは、毛利家に組していくのか、それとも織田信長と結ぶのがよいのかということである。この頃、信長は長篠の戦いで武田家を破り、次は中国へやってくるはずであった。その矢面に立つのは播州である。

官兵衛は織田支持を力説した。天下は必ず織田の旗のにより風靡される。その信念のもとに評議に臨んだのである。

やがて、説得の甲斐あり、評議は織田支持でまとまった。さっそく、使者として官兵衛が織田家に向かうことになった。だが、出立した矢先に城では毛利支持派が勢いを盛り返したようだ。ことは急がねばならない。岐阜までは目薬売の恰好で旅をした。

姫路を出立してから一月を要して岐阜に着いた。さて、誰を仲介して織田信長に会うかが問題である。だが、官兵衛には一人の人物が頭の中にあった。それは、羽柴藤吉郎である。

羽柴藤吉郎に会うまでは、この人物を善く使うつもりでいた。だが、いざ合ってみるとそのことが逆であった。同席には竹中半兵衛重治がいた。

官兵衛は藤吉郎に切々と中国の問題を訴えた。だが、なかなか煮え切らない。それを見て官兵衛は激した。だが、藤吉郎も事態はよく解っていたのである。そして信長に会うことになった。

信長との会見は至極上手くいった。官兵衛は意気揚々として播州へ戻る。この時涙が官兵衛の頬を伝わった。

摂津の荒木村重は重要な位置を占めていた。それは、彼のいる地理的な条件もそうさせている。また、小寺家と荒木家の浅からぬ縁というのも重要な要素であった。

官兵衛が播州に戻ると早速に毛利が攻め込んできた。小寺家が一枚岩でないことは官兵衛が一番知っている。いつ裏切りが出るとも限らない。官兵衛はこうした状況の中よくしのいだのである。

どうしても織田家の援軍が必要である。官兵衛は主・小寺政職にかわって自分の子・松千代を質子として岐阜へ送った。そして、待望の織田軍がやってきた。織田軍の中国陣総指揮は羽柴藤吉郎である。

官兵衛は藤吉郎の下につき、織田軍の中国侵攻の補佐をした。当面の敵は三木城の別所長治である。これは、一字懐柔したものの、藤吉郎が別所家を怒らせてしまい敵になったのである。

驚きの報告がもたらされた。それは、荒木村重が裏切ったとの報であり、同時に小寺政職も裏切ったとの報である。

官兵衛は仰天し、すぐに説得の使者として小寺政職に会う。そして、小寺政職は荒木村重が謀反を思いとどまるのであれば、織田家を離れることはしないと約束した。

官兵衛はなんとしてでも荒木村重を説得しようと村重に会う。だが、官兵衛は小寺政職に裏切られ、荒木村重に拘束されてしまう。官兵衛が押し込められたのは、日の当たらない、それでいて湿気の多い狭い牢であった。

官兵衛が荒木村重に捕まったとの報告はすぐに信長にもたらされたが、疑い深い信長は官兵衛が裏切ったに違いないと決めつけ、質子・松千代の処断を命じた。

これらの報告は黒田家にももたらされた。黒田家では官兵衛救出の十三名の決死隊が結成され、敵地へと向かう…

本書について

吉川英治
黒田如水
講談社文庫 約三七五頁
戦国時代

目次

蜂の巣
岸なく泳ぐ者
沐浴

信念一路
丘の一族
玲珠膏
先駆の一帆
鍛冶屋町
深夜叩門
初対面

与君一夕話
死を枕とし
鉄壁
設計二図
質子
待望の日
名馬書写山
友の情
将座の辛さ
捨児の城
平井山の秋
道は一すじ
紙つぶて

封の中
猜疑
虱と藤の花
老いざる隠居
惨心驢(ろ)に騎せて
菩提山の子
かくれ家
昆陽寺夜話
室殿
蛍の声
藤の枝
違和
男の慟哭
戸板
稲の穂波
陣門快晴
髪を地に置く
心契
美人臨死可儀容
城なき又坊
草履片方・下駄片方

登場人物

黒田官兵衛孝高
松千代(黒田長政)
黒田宗圓…父
母里太兵衛
衣笠久左衛門
與次右衛門
白銀屋新七
お菊
羽柴藤吉郎秀吉
竹中半兵衛重治
織田信長
荒木村重
室殿
小寺政職
別所長治

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