記事内に広告が含まれています。

山本一力の「蒼龍」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約4分で読めます。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

やはり山本一力はうまい。そのうまさの源は、小説に向き合う姿勢にあるのだと思う。

「蒼龍」はオール讀物新人賞受賞作。当時山本一力には借金二億円があった。その返済のために、起死回生の一発が作家になることだった。

ベストセラーを出せば、借金を返せる。元々の動機は借金返済だったのだ。ある意味、イギリスの作家・ジェフリー・アーチャーと似ている部分である。

動機は借金返済だが、そのためには売れなくてはならない。つまり面白くなくてはならないのだ。だから、山本一力の作品には明確に面白い小説を書くという意志が感じられる。

読者に対してエンターテインメントを提供するという強い意志が感じられるのだ。これこそが、うまさの源なのだと思う。

スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

のぼりうなぎ

弥助は腕利きの指物職人だ。その弥助が杢柾に向かった時のこと、主の柾之介が弥助に折り入っての頼みがあるという。呉服屋近江屋の手代にならないかというのだ。

突拍子もない話に弥助はいったんは断るが、柾之介の熱心なすすめと、通い詰めている「柿の葉」の主膳吉のすすめもあり、この話を引き受けた。

しかし、弥助は最初から壁にぶち当たった。というのも、番頭を筆頭に手代から小僧に至るまで弥助に対する風当たりは強い。皆、近江屋の看板を背負っている意識が強くて、外部の人間に冷たいのだ。

その冷たさは客に対しても表れている。それをどうにかしたくて近江屋九右衛門は弥助を雇ったのだ。折しも、同じ呉服の業界では越後屋が急速に商いを広げている最中である…

節分かれ

高之介は父である稲取屋勝衛門のやり方に不満を持っている。蔵にある灘萬からの酒が残り少なくなっており、大きな取引先である小田原屋から催促が来ているのだ。

この際、灘萬以外からも仕入れるべきだと主張するが、勝衛門は首を縦に振らない。そればかりか、灘萬にたいする恩義を忘れて商売をすることはありえないことだと高之介を叱責する。

公儀の締め付けは厳しくなる一方だったので、勝衛門には勝算があったのだ。公儀の締め付けは、札差しの借金をちゃらにするという暴挙となって現れた。この結果、景気が著しく悪化する。勝衛門は、ここで、灘の酒を二十文という安さで売るという勝負に出た。

菜の花のかんざし

堀晋作の元に届けられたのは、堀家の一大事だった。若殿が馬を制御しきれなくなって落馬し、さらに馬に蹴られて死んでしまった。その時、正次郎は側にいた。

そして正次郎は胸のうちが収まらない奥方の怨みを買って、座敷の閉じこめられた。この正次郎を面白く思っていなかった大東が正次郎を愚弄した。意趣返しである。これに正次郎は公然と刃向かい大東を殺してしまった。

追って、藩からの刺客がやってくるだろう。晋作は覚悟を決めた。そして、息子・真之介と、娘・かえでも覚悟させる必要があると思った。

妻・柚木乃には咎めがないだろうから、今の内に逃げろと言ったが、柚木乃は晋作に食ってかかる。息子と娘を道連れにするつもりなのですかと。

長い串

土佐藩はこの年参勤交代で国に帰る年に当たっていた。若い吉岡徹之介を道中奉行として、一行は島田の宿までやって来た。ここで雨のため足止めをくらった。

他藩も同様である。ここで、徹之介は人足頭の傳吉に相撲の勝負を挑む。勝てば他藩より先に川を渡らせろというのが勝負の内容である。

そのころ、土佐藩江戸留守居役の森勘左衛門は一行が無事に国に戻れているかをやきもきしながら過ごしていた。その中で、知遇を得たのは掛川藩の江戸留守居役の甲賀伊織であった。土佐藩の藩祖はもともと掛川領主だった。そのため、二人はうち解ける中になった。

ある日、大目付から森勘左衛門は呼び出しを受けた。内容は島田宿での相撲のことである。これが問題となっていた…

蒼龍

大工の弦太郎には借金が五十両あった。始めにケチがついたのは博打での五両だった。悪いことは重なるもので、妻の兄が店の金に手をつけた。その額は五十両であった。博打の借金は弦太郎の親方に肩代わりをしてもらったものの、五十両が残っている。

そんな中、弦太郎の目にとまったのは岩閒屋の張り紙である。そこに書かれていたのは、茶碗・湯飲みの新柄を求む。礼金五両。ほかに一対焼くごとに、金二文。となっていた。

これだ。弦太郎は早速絵柄を書き始めた。

本書について

山本一力
蒼龍
文春文庫 約三五〇頁
短編集
江戸時代

目次

のぼりうなぎ
節分かれ
菜の花のかんざし
長い串
蒼龍

登場人物

のぼりうなぎ
 弥助
 近江屋九右衛門
 利兵衛…近江屋番頭
 晴次郎
 柾之介
 膳吉…「柿の葉」主
 こまり…膳吉の娘

節分かれ
 稲取屋勝衛門…酒問屋
 高之介…四代目稲取屋
 禎二郎…番頭
 灘萬
 小田原屋

菜の花のかんざし
 堀晋作
 柚木乃
 真之介
 かえで
 尚平…下男
 堀正次郎…晋作の実弟

長い串
 森勘左衛門…土佐藩留守居役
 吉岡徹之介…道中奉行
 甲賀伊織…掛川藩留守居役
 傳吉…島田の人足頭

蒼龍
 弦太郎
 おしの
 孝蔵…番頭