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高橋義夫の「狼奉行」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

第106回直木三十五賞受賞作品

「狼奉行」が直木三十五賞受賞作。

雪深い山奥で、藩の中央とは離れつつも、藩の政争に巻き込まれてしまう祝靱負。その祝靱負も、みつや古沢十兵衛ら土地に根付いた者と生活していくうちに、次第に心が変化していく。

この心の変化の過程に読み応えがある。また、厳しい自然の中で生活する人間の逞しさも読み所の一つであろう。

一回よりも二回三回と読んだ方が面白さの増す作品である。

「廈門心中」はミステリーの要素がある。一体何のために事件が起きたのか。これが一つの物語の軸となっている。

「小姓町の噂」は日露戦争終了後、条約が締結されるまでの期間、日本で俘虜生活をしていたロシア人達との交流を描いた作品。

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内容/あらすじ/ネタバレ

狼奉行

祝靱負が城から十数里離れている黒森館に郡奉行支配の山代官出役として勤めることとなった。祝靱負はこの人事に釈然としない思いであった。

館では古沢十兵衛と安達左織が出迎えてくれた。ここは雪深い土地柄である。雪がしっかりと踏み固められた頃、山から勘のうが率いるまたぎが降りてきた。

春が訪れた。麓の村に狼が出現し始めているという知らせが入ってきた。

その頃、城下に置いてきた幼妻・すえが自害したという知らせが入る。詳しい事情は分からないものの、城中で大変なことがおきたらしい。いわゆる政変というやつだ。

この知らせを受けた頃、祝靱負を訪ねてきた二人の人物がいた。二人は脱藩して江戸に赴き藩政を質すのだという。それに祝靱負も誘われたが、古沢十兵衛らが押しとどめた。

祝靱負には敗北感に打ちのめされた。藩の大事に役に立たない用のない人間に思われた。この時に祝靱負の世話にと現れたのがすえであった。すえは勘のうの娘である。

すえと触れ合ううちに祝靱負のわだかまりも消え、暇を見つけては古沢十兵衛から棒術の稽古をつけてもらうことにした。

数年経ち、藩の政事も落ち着きを取り戻したある日。館周辺で狂犬病が流行始めていた。どうやら狼が犯人のようである。

廈門心中

たえが目を覚ましたのは、多一郎が火事で東本願寺布教所が燃えているという声だった。日比野四郎警部もこのことを知ったのは深夜のことである。

どうやら拳匪の焼き討ちを受けたらしい。拳匪とは義和団のことである。ここは中国の廈門である。

廈門の日本人社会は不安に怯えていた。近頃は拳匪の襲撃があるとずっと言われているのである。その矢先の出来事だった。日比野四郎警部は、この事件について多一郎らに事情聴取をした。

この騒ぎのあった後すぐに日本海軍が上陸をした。廈門の日本人を守るという名目である。

だが、これにイギリスなどの列強が猛抗議をした。そもそも布教所の延焼は放火ではないというのだ。これには日比野四郎警部もどういうことかといぶかる。そして、調書を再度見直し始める。

小姓町の噂

藤岡虎太郎はロシア俘虜の通訳となった。俘虜達は日露戦争におけるものである。そこで、中村巡査とともに俘虜達の生活を見張り、世話をすることになった。

俘虜の中には若い者も混じっていた。藤岡虎太郎と中村巡査は日々の生活で彼らと触れ合う中で彼らに親しみを感じるようになっていた。その中、俘虜の一人ワシーリイ・キルゴヒンが小浪という遊女に惚れ込んでしまう。

そして、小浪もワシーリイ・キルゴヒンに好意を持つようになる。日露講和条約が締結され、やがて俘虜達は故郷のロシアへと帰っていく時期が近づいてきた。

本書について

高橋義夫
狼奉行
文春文庫 約二八〇頁
江戸時代

目次

狼奉行
廈門心中
小姓町の噂

登場人物

狼奉行
祝靱負
すえ
丹治
古沢十兵衛
安達左織
勘のう
みつ
佐藤三郎助

廈門心中
秋元たえ
桑島多一郎
大島栄蔵
曲(クー)
日比野四郎警部
金子書記生
芳村領事代理

小姓町の噂
藤岡虎太郎
中村巡査
ワシーリイ・キルゴヒン
小浪