佐藤雅美の「物書同心居眠り紋蔵 第7巻 白い息」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第七弾。

あこがれの定廻りになった紋蔵。

定廻りは何より実入りがいい。わずか二月で収入が軽く十倍になった。

だが、毎日が充実しているかというと、そうでもない。岡っ引きが摘発する犯罪のほとんどは盗みで、岡っ引きは盗人を捕まえて引合をつけ、それを抜かせて稼いでいる。このあたりは「半次捕物控シリーズ」に詳しいので、一読をオススメする。

江戸時代の治安を守っていたのは、江戸の町を巡回している南北合わせて二十人の定廻り同心と臨時廻り同心、四人の隠密廻りである。

江戸に千七百町余もあった。俗にお江戸八百八町というが、八百八町とは数の多さを意味するだけだが、それ以上あった。

そこを南北合わせて二十人が受け持つ。当然それだけの人数では無理なので、岡っ引きを使う。およそ三百二十人で、南北の定廻り・臨時廻りは一人当たり平均で岡っ引きを十六人使っている。ちなみに、紋蔵は十七人を使うことになった。

岡っ引きにはそれぞれ下っ引きといわれる子分を三、四人持っている。それをひっくるめると、総勢七十人をこす。この七十人は一癖も二癖もあり、目を離すと悪事をしでかすので悪事をはたらかせないように飯を食わせるのが大変だった。

この定廻りとか臨時廻りとかの「同心」であるが、本書に次のように書かれている。

『同心は南北それぞれに百五十人がいて、五組に分けられた。一組三十人。構成は年寄同心五人、物書同心五人、若同心二十人。年寄同心や物書同心というのは身分のことで、紋蔵は三番組物書同心という身分のまま定廻りに転属されていた。』

てっきり、定廻りとか臨時廻りとか物書というのは、同一身分内における役職名だと思っていたので、意外な発見だった。

さて、いわゆる八丁堀スタイルは、『御成先着流し御免といって、将軍の御成り先でも着流しが許されていて、武士なら必ず身につけなければならない袴を佩かない。

着物の柄は派手な格子か縞。身幅は裾が割れやすいように女幅。その上に竜紋裏三ツ紋付の黒羽織の端を、巻羽織といって裾を内側にまくりあげて帯に挟み、茶羽織のように短く着る。髷は八丁堀髷といって、一(髷の元結で結んだところから後方に突きでた部分)を詰める。』

紋蔵はこれが恥ずかしかった。いかにも八丁堀風というのが照れくさいのだ。さらに、「おっす」と声をかけて自身番に入っていくなども照れくさかった。

そもそも、「おっす」と声をかけて入っていくなど知らないことで、これも意外な発見だった。

照れくささを感じながらも、定廻りとしての働きをする紋蔵。付け届けの多い盛り場も割り振られている。

南北の三廻りは、江戸の盛り場を、付け届けの額が均等になるように割り振っていた。

深川には七場所の岡場所がある。そのうちの櫓下、裾継といわれる二箇所がある永代寺門前山本町が紋蔵に割り振られている。櫓下は文字通り火の見櫓の下にあることからそう呼ばれている。

さてさて、いつものことながら、瓢箪から駒というか、事件は意外なところから解決していく。

『これは上分別というよりは怪我の功名だ。』

この言葉は、本書の「大坪本流馬術達者のしくじり」の最後に書かれているが、これが、このシリーズの最大の特徴であり、いくら紋蔵が頭をひねって、こうだろうと考えても、結果がそうなるとは限らない。

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内容/あらすじ/ネタバレ

南の定廻り同心藤木紋蔵は市ヶ谷八幡宮門前八幡町の兼七を待った。その兼七がやってきて「御定書」について書かれている内容を紋蔵に聞いてきた。

ある人が大坂で大坂三郷に罷り在らぬように申しつけ渡されたのだそうだが、その人は江戸ではどうなのかというのだ。

兼七は出入り場の一つの呉服・太物屋井桁屋の大旦那から尋ねてくれてと言われたのだった。

紋蔵は書類を手繰ると、二十年前に大坂の簑吉が同じように大坂三郷に罷り在らぬように申しつけられていた。ある人とは簑吉のことだろうが、これなら簑吉は江戸にいて問題はないかのように見える。

だが、同じ事例なのに、江戸にいてはいけないというものがある。二通りの裁許がくだされているのだ。

呉服屋・井桁屋の藤右衛門が紋蔵に事情を説明に来た。

藤右衛門は蘭に凝っている。そして雲竜獅子という新種の栽培に成功し、逸品の評価を得たのだという。それが十株あり、簑吉が一株三百両で買うということになった。

だが、掘ってみると二株が地中に根をはっていることがわかり、その二株をめぐって簑吉と意見が食い違うことになった。そうしているうちにその二株を合わせ十二株を三千六百両で買おうという人物が現われた。簑吉は蘭の世界では有名な人物だという。

やがて、藤右衛門は訴えた

四ッ谷伊賀町に近い谷町で殺しがあった。殺されたのは時の物売りの女房で、殺したのは亭主だ。亭主は丑松といい、卵も扱い、家持ちなのだという。

丑松は女房のきわが昔務めていた料理茶屋の男衆の丈助とよりをもどしたのを知り、ある時にきわといさかいとなりカッとなって刺してしまったのだという。

これなら、丑松は無罪ということになるが、紋蔵は丑松がどうやって家持ちになれたのかを調べさせることにした。おそらくは卵の儲けからだと思っていたのだが…。

岡っ引きの亀蔵が盗人を捕まえてきた。御屋敷荒らしのようで、岡っ引きとしては捕まえてきても引合が抜けないので稼ぎにならない。

盗人は野州の角蔵と名乗った。名が本名かどうかはともかく、素性を洗った方がいいので、亀蔵に野州に調べに行かせた。

すると角次が本名であることがわかった。親の勘当に遭い、無宿なっている。

蜂屋鉄五郎に呼ばれた。京極家屋敷内で、七両が何者かに盗まれるという事件があった。

角次はこの京極家の隣の屋敷から盗み取っている。あるいは角次の仕業かもしれない。とにかく、この京極家の一件には日にちが残されていないのだと聞かされた。

筆頭与力の安藤覚左衛門から朝一で呼び出された。

旗本の堀尾将監という人物がおり、大坪本流の馬術の達者だという。これが町火消しの頭の目を鞭で打ち、その仕返しに町火消しの連中にぼこぼこにされた。

そして、旗本が落馬して火消しに袋叩きに遭っているという絵柄の浮世絵を摺って売ろうとしている者がいる。それが出回らないように手配してくれと頼まれたのだ。

南町奉行には絵類改掛という掛りがあって、紋蔵と細田邦之助が任ぜられている。細田の手が空いていないので、紋蔵のお鉢が回ってきた。

絵類改掛肝煎名主の十兵衛に話を聞きに行っても、そのような話はないという。

それとは別に紋蔵は十兵衛から頼まれごとをされてしまう。この頃、花会に紛らわしい名弘メが増えている。花会とは金集めだけが目的の集まりである。

市ヶ谷八幡宮門前に八五郎という地廻りがおり、それが花会同然のあくどい金集めをしているので、とっちめてくれといのだ

伊勢屋の平兵衛のところに紋蔵が顔を出した。ここには手先を交代で詰めさせている。半月前、老舗の鰻屋に押し込みがあった。賊は何故か古金があることを知っており、それを出させた。賊の一人は、御武家か浪人者のようだ。

そうした中、両替屋の伊勢屋に御武家のなりをした客が、懐から古金を取り出し、両替して欲しいと言ったのだという。それで、詰めさせているのだ。

今回の件とは別とは言うのだが、伊勢屋に二朱銀の偽金が紛れ込んだ。

例の御武家のなりをした客が来た。それっとつかまえると、脇坂家中の者だと言い張る。まさかとは思いながら確かめさせると、はたして間違いなかった。ことによっては左遷させられるかもしれない失態だ。

人宿八官屋の捨吉から使いがあった。偽金が紛れ込んだという。

それをたどって調べると、三田の質屋にたどり着いた。そこの客で怪しいのが螺鈿削り取り職人の清兵衛だ。紋蔵は兼七を弟子入り志願者として清兵衛の所に潜り込ませた。

馬が暴れて伝馬役所の二階に上がった。馬子がけしかけたというが、馬子は否定する。そうした中、馬指の元造が殺されて見つかった。目撃者はいない。

紋蔵は、暴れた馬の件からはじめることにして、馬子の市兵衛を問いつめた。

元造は金貸しが本業といってもいいほどで、元造を恨んでいる人間は数多くいる。紋蔵は証文を預り、その証文に記載された人物をあたらせた。すると、皆が白であることが判明してしまう。

もう一度調べなおしていると、市兵衛が村戻っているところに御武家が訪ねていったという話が伝わってきた。さては、その御武家が何か関係しているのか?

永代寺門前山本町の甚五郎が来た。先日の事件の件だ。

ここで勢力を伸ばしていた新三郎という顔役を、喜八という若者がどてっ腹をぶすりとやった。

喜八の幼馴染みの庄助が、辰五郎が喜八にやらせたのだといいはる。なぜなら、喜八は新三郎に怨みはないからだ。

安藤覚左衛門がいう。吹上上聴が行われることになった。特異な事件があり、先例を例繰方で調べさせており、一応先例はないということになっているが、万が一ということがある。紋蔵に手伝えと言う。

紋蔵は先例があることを知っていた。だが、ここで先例があることを言うと、例繰方の顔を潰し、かつ、いまの例繰方では覚束ないというので戻されてしまう可能性がある。何かの偶然で先例を見つけたということにしようと、紋蔵は考えた。

喜八のお袋が借金を作っており、娘がとばされようとしているのを、借金をきれいにして、五十両をのっけようと誘ったというのがわかってきた。

灯台もと暗し、これを吹上上聴でとりあげでもらおう。

蜂屋鉄五郎と安藤覚左衛門、沢田六平があつまって相談している。今のままでは例繰方が危なっかしい。藤木もいつまでも務められるわけではない。今のうちに第二の藤木を育てる必要がある。それには藤木の息子・紋次郎を育てるのがいいのではないか。

かといって、二年足らずの定廻りの中で落ち度があったわけではなく、例繰方にもどすのは酷だ。

生薬屋牡丹屋の番頭・忠兵衛がやってきた。附子を相手の名などを確かめずに売ってしまったのだという。どうすればいいのかというのだ。

大工に熊吉というのがいる。弁当を盗まれたのだが、その盗んだ人間が弁当を食べて死んだ。さては、毒が盛られたか。盛ったとすると、熊吉の女房ということになる。女房はかねてから間男していたふしがある。間男と示し合わせてのことか…。

本書について

佐藤雅美
白い息
物書同心居眠り紋蔵7
講談社文庫 約三九〇頁
江戸時代

目次

蘭長者簑吉の名誉
時の物売りと卵の値
それでも親か
大坪本流馬術達者のしくじり
坊主びっくり貂の皮
そそっかしい御武家
落ち着かぬ毎日
白い息

登場人物

藤木紋蔵

佐助…紋蔵の小者
蜂屋鉄五郎…三番組の吟味方与力
安藤覚左衛門…年番与力で筆頭与力
安田五郎左衛門…与力
助川作太郎…与力
大竹金吾…三番組に属する定廻り
捨吉…大座配の親分株
亀蔵…岡っ引き
甚兵衛…岡っ引き
兼七…岡っ引き
藤右衛門…呉服屋・井桁屋
簑吉
伊平…岡っ引き
宇吉…下っ引き
丑松…時の物売り
きわ…丑松の女房
丈助
およね
半兵衛…きわのおじ
おみね
角蔵(角次)
小林伝之丞…京極家御使番
山城玄蕃
堀尾将監…旗本
十兵衛…絵類改掛肝煎名主
八五郎…地廻り
喜代次
長兵衛…ゐ組の頭
平兵衛…伊勢屋の主
山中重右衛門
清兵衛…螺鈿削り取り職人
元造…馬指
三平…馬指見習い
市兵衛…馬子
浜田三右衛門…表火之番
甚五郎
喜八
庄助
辰五郎…顔役
新三郎…顔役
忠兵衛…生薬屋牡丹屋の番頭
熊吉…大工

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