覚書/感想/コメント
第一回 日本ファンタジーノベル大賞 大賞
第1回ファンタジーノベル大賞受賞作。新設の賞であるにも関わらず、大賞受賞作がいきなりレベルが高く、これ以後の受賞作選定にあたりとても良い指標となっている作品である。
ちなみに、同賞では「リング」などの作品がある鈴木光司も賞をもらっているが大賞ではない。同賞の初期の頃の大賞受賞作は本当にレベルが高いので、興味がある方は読まれることをお薦めする。
さて、本書は、時代区分も地域も架空である。一応中国と思われる地域を舞台としているが、年号などは架空のものであり、さらには、現代の暦すら”西暦”と書かれていないので架空と考えた方がよい。それでも、現代の暦を西暦と読み替えてここでは話を通したいと思う。
さらに、本書の作成にあたって参照した文献として「素乾書」「乾史」「素乾通鑑」が挙がっているが、当然存在しない文献であることは言うまでもない。
完全に虚構の設定で話を進めているのだが、歴史性を感じさせる内容であるため、ここに掲載することとした。だが、歴史小説ではなく、普通の意味における時代小説でもない。
だが、広く自由な考えで物事を捉えれば、時代小説の区分に入ると私は考える。時代小説は虚構性が高い小説のジャンルであると思っているので、こういう小説があっても良いのではないかと思うのだが、如何だろうか?
内容/あらすじ/ネタバレ
腹英三十四年、現代の暦で一六〇七年、帝王が死んだ。後の諡を腹宗と呼ばれる帝王である。この時、銀河は十三歳だった。
腹宗の嫡子が王位を継承するにあたり、宦官達が行ったのは新しい後宮作りである。宦官達は各地に飛び、新しい宮女達を求め始めた。
銀河の住むところにやってきたのは真野という宦官である。真野は銀河だけを連れて帰った。銀河以上の者がいなかったのであろう。
都へ戻る途中、真野は銀河に基本的な礼儀作法を教えようと躍起になったが、無駄な努力に終わった。だが、真野にとっては銀河は自分が出世できるかどうかの重要な持ち駒なのである。途中一つのエピソードを交えながら、一行は都へ到着する。
都に到着して、銀河はたると(垂戸)と呼ばれる隧道を導かれて歩いた。後宮に入る入り口である。ここで、銀河は双槐樹(コリューン)と名乗る女に出会う。きっとこの人も宮女候補なのだろう。
たると(垂戸)を出ると、みすぼらしい下町の下宿みたいな建物が見えてきた。ここが後宮の一分で仮宮と呼ばれる宮女候補達が住む場所なのである。外見とは違い中はたいしたものだった。
仮宮は相部屋である。銀河と一緒になったのは、出会った順番に、世沙明(セシャーミン)、江葉、玉遥樹(タミューン)である。この同居人達とともに銀河の後宮での生活が始まる。
後宮では早速後宮教育が開始される。銀河達に教えるのは瀬戸角人、通称角先生である。そして、助手の菊凶である。主に教えるのは房中術である。
この後宮教育が終わると、宮女候補生は晴れて宮女となる。銀河は正妃となった。
銀河が正妃となった頃の、後宮の外の事情は混迷をきわめ始めていた。幻影達という男が乱を起こしていた。そして、銀河にとっては衝撃的だったのは、女と思っていた双槐樹(コリューン)が実は男で、しかも帝王であるという。
つまり自分の夫なのである。この双槐樹(コリューン)も内部で命を狙われているという。外部の乱と、内部の権力闘争が激しさを増してきた。
銀河の後宮生活は始まったばかりであるが、これから先一体どうなるのだろうか…
本書について
酒見賢一
後宮小説
新潮文庫 約二九〇頁
中国(?)17世紀(?)
目次
崩御
宮女狩り
入宮
双槐樹
仮宮
女大学
後宮哲学
卵
淫雅語
銀正妃
喪服の流行
前夜の絵巻
幻影達の乱
北磐関
後宮軍隊
受胎
縦横
登場人物
銀河
双槐樹(コリューン)
世沙明(セシャーミン)
江葉
玉遥樹(タミューン)
瀬戸角人(セト・カクート)…老師
菊凶…助手
平勝(幻影達=イリューダ)
厄駘(渾沌
栖斗野…宦官
真野…宦官
亥野…宦官
琴皇太后