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佐伯泰英の「密命 第10巻 遺恨-密命・影ノ剣」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第十巻。

(巨星墜つ)から始まる出だしは、波乱含みの展開を予想させる。果たして、惣三郎、清之助親子に魔の手が忍び寄る。

修行中の清之助は九州から四国に渡っている。お遍路さんよろしく、四国を回っている。ここに、敵が出現するのだ。

清之助はこの四国の修行の旅の中で、「霜夜炎返し」から変化した「霜夜日輪十字斬り」という剣を編み出す。

熱心に修行一辺倒かと思いきや、清之助は家族宛に手紙を送り、それに家族分のお札と伊吹屋の葉月分のお札を送っている。葉月も清之助をにくからず思っており、二人の行方を周りの人間は静かに見守っている。

この葉月に災難が降りかかるのだが、この問題を解決するに当たって惣三郎が言い放った文句が意味深である。

さて、清之助と葉月の恋模様だけでなく、みわも鍾馗の昇平に惚れていると結衣に指摘されて、慌てる場面があり、津軽卜伝流の棟方新左衛門にもお見合いの話があったりと、進展が著しい。

一足早く恋が実った西村桐十郎にも息子が出来た。西村晃太郎と名付けられた。

惣三郎も五十という年齢にさしかかり、物語は子供達の世代に徐々に移行していく。

本書でも見習同心の三留燕次郎や石見道場に新たに寄宿する北沢毅唯らの若者が登場し始めている。

この世代交代は、そろそろ尾張に起きる藩主交代と、その後の本格的な吉宗と宗春の対決を予感させる。

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内容/あらすじ/ネタバレ

鹿島の米津寛兵衛が死んだ。その報に愕然とする金杉惣三郎。取るものを取らず、石見銕太郎と二人で鹿島に赴くと、なんと米津寛兵衛は旅の武芸者と立ち会って死んだという。だが、この立ち会いは必ずしも尋常のものではなかったようだ。

旅の武芸者の名を影ノ流鷲村次郎太兵衛といった。

江戸に戻り、米津寛兵衛の法要を行った。享保八年(一七二三)の正月二十一日のことである。

影ノ流には薩摩「影之流」と尾張新陰流の別称の二つがある。鷲村次郎太兵衛の影ノ流とはどちらを指すのか…。

荒神屋で働くとめが息子・芳三郎の奉公の相談をしていた。色々話した結果、芳三郎は荒神屋で働くことになった。

その頃、伊吹屋の葉月に縁談が持ち込まれて、伊吹屋が困っているとの話を聞く。その伊吹屋から惣三郎は相談を持ちかけられた。

葉月に縁談を持ちかけているのは江州宮川藩堀田家である。しかも側室にというのだ。この堀田家では主権を争い、家老と分家と出争っていた。

伊吹屋にとって問題なのは、この堀田家とのつきあいが長いことである。

この後、気晴らしにと、久々に飛鳥山に家族と葉月、鍾馗の昇平を連れて訪れた。

残寒の日が続く江戸の町。火付けが横行していた。今回の火付けは様子がおかしいといったのは西村桐十郎である。火付けにあったのは商いをするのには打ってつけの場所ばかりだというのだ。だが、そこには昔から住人が住んでいる。

火付けをして店子を追い出し、新たな長屋は造らない。追立屋といわれる仕事師が上方から下ってきているという噂がある。

清之助から手紙が届いた。四国の伊予からである。この清之助を黒役小角の頭領・峻険坊魏山らが狙う。なぜ狙われるのか?

そして、清之助の手に米津寛兵衛の訃報が届いた。

大岡忠相が惣三郎を呼び出した。緊急の用ではないが、御用の筋だった。

大岡は尾張の宗春が禅寺に参籠されているのが気がかりだという。今まで暗闘を繰り返してきた宗春が、何もせずに禅寺に参籠しているのが気味悪いらしい。

それに、米津寛兵衛を殺した鷲村次郎太兵衛が影ノ流を名乗っているのも気になるという。そこで、宗春の動向を探れという。

金杉惣三郎を狙う輩が現れる。だが、姿を現さない。そして、その者の視線は惣三郎の家族にも向けられていた。

さて、伊吹屋の葉月の問題が再浮上してきた。ここでけりをつけるため惣三郎は老中・水野家の用人杉村久右衛門に相談を持ちかけた。

石見道場に北沢毅唯と名乗るなにやら子細ありげな若者が現れる。剣に多少の自身があるようだが、簡単にあしらわれ意気消沈する。だが、石見銕太郎の好意により、北沢毅唯は石見道場に寄宿することになった。

そして、石見道場の客分の棟方新左衛門に見合いの話が来た。

だが、棟方新左衛門の見合いの後に鷲村次郎太兵衛が新左衛門に傷を負わせる。ついに米津寛兵衛を殺した人間が姿を現した。そして、惣三郎に牙をむき始める。

鷲村の家系はたどると尾張に関係する。そして、百年余りにわたって、正体をみせることなく尾張徳川の身辺を守ってきた家のようだ。鷲村家には表一流と称する秘太刀が一子相伝で伝えられているという。

本書について

佐伯泰英
遺恨 密命・影ノ剣
祥伝社文庫 約三八五頁
江戸時代

目次

序章
第一章 葉月の災難
第二章 追立屋手妻の侘助
第三章 万五郎参禅
第四章 石鎚山の戦い
第五章 新左衛門の見合い
第六章 大岡家の法事
終章

登場人物

鷲村次郎太兵衛…影ノ流、表一流
元次…下忍
伊吹屋金七
葉月
板取五郎左衛門…江州宮川藩堀田家家臣
花房職勝…旗本
島村杉平…花房家用人
芳三郎…荒神屋、とめの息子
追立屋手妻の侘助
峻険坊魏山…黒役小角頭領
伴佐七…井蛙流石河派継承者
三留燕次郎…見習同心
的場の勝五郎
民三…代貸
時蔵…大岡忠相の密偵
多津…大岡忠相の密偵
金春小次郎…能楽師
一ノ木平五郎…尾張柳生
北沢毅唯
徳川宗春
棟方新左衛門…津軽卜伝流
久村りく
坂崎十八朗…南町奉行所隠密同心