佐伯泰英の「夏目影二郎始末旅 第9巻 奸臣狩り」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第九弾

大きき二つの物語がある中編連作といった趣。

ちょっとした転換期といった感じでもある。

最初は、草津に湯治に出かけた影二郎一行が、国定忠治捕縛に関連した八州廻りの動きに巻き込まれるというもの。

ここでは、いよいよ追いつめられ、配下も境川の安五郎、八寸の才市、蝮の幸助の三人になってしまう国定忠治の姿が描かれている。

この中で、国定忠治一行の”ある人物”が瀕死の重傷を負うことになり、「とうとう、国定忠治もおしまいかぁ」と思ってしまうくらいである。

次は、江戸に戻ってきた影二郎に寝耳に水の事柄。

父・秀信が大目付を罷免させられそうだということ。しかも、お家改易の上、切腹までさせられそうとあって、一大事。

水野忠邦に取引を持ちかけ、何とかことを済まそうと奔走する影二郎。だが、秀信への切腹の申し渡しまで時間がない。せっぱ詰まる展開に、影二郎はどうする?

物語は、天保の改革がいよいよ本格的に始まり、世の中が不景気のどん族に落とされる時代。現代でいえば、緊縮財政を行うわけだが、これが逆に徳川幕府の弱体化を加速させる結果になってしまうのは皮肉なものである。

沿岸には海外の船が姿を見せ始め、隣国の清では阿片戦争が起き、イギリスに蹂躙されようという時代でもある。

遅かれ早かれ世界の潮流に飲み込まれ、開国をせざるを得ないのだが、この時期に鎖国を止めて、貿易を解禁していたら、徳川幕府はもっと長続きしていたかも知れない。

もっとも、徳川幕府の場合、租税方法を変えるだけで、もう少し長続きしていた可能性はあるのだが…

なお、今回の始末旅は、上からの命が出ているわけではない。影二郎が独自に判断して動き始めている。こうした点も一つの転換点だろうと思う。

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内容/あらすじ/ネタバレ

十二代将軍家慶の四十九才の誕生日に発表された水野忠邦の天保の改革は、あらゆる贅沢を禁止するものであった。

それは天下祭りと呼ばれる神田祭ですら例外ではなかった。南町奉行に就いた鳥居耀蔵は天保の改革を強行し、そのあおりを食うように、嵐山も停止の命が下った。

これを機にと、影二郎は祖父母の添太郎といく、それに若菜を連れて湯治に出かけることにした。

湯治先は浅草弾左衛門の勧めもあり草津になった。

その前に、かつての無頼の徒の時代の仲間、寒烏の平吉の身に降りかかった災難を除くことに奔走する。

…草津に着いた影二郎一行。愛犬のあかも一緒だ。だが、八州廻りの八巻玄馬が草津に木戸を設けており、不穏な空気である。それは、国定忠治一行が潜入しているという情報によるものであった。

国定忠治一行はかつての勢いがなくなり、追いつめられている節がある。様々な経緯で国定忠治とは持ちつ持たれつの関係にある影二郎は複雑な心境である。

そうした不穏な空気の中、影二郎一行は湯治を楽しむ日々が続く。若菜は土地の食べ物の作り方を教わり、江戸に戻って嵐山の再営業の際に役立てようと考えているようだ。

…国定忠治を追っている八巻玄馬の一行は、矢板の寅五郎一味と、盲目の剣士・西念寺一傳を連れてやってきている。

この八巻玄馬は、国定忠治一行の捕縛のみならず、かつて八州狩りと称する手練れの剣客を殺すつもりであるという。この八巻玄馬は、かつて影二郎が粛清した日野初蔵こと八巻初蔵の弟であった。

…草津での逗留を終え、江戸に戻ると、父の秀信が御役後免になり屋敷に蟄居しているという。鳥居耀蔵による策謀のおかげである。

影二郎は父の危急を救うために、老中水野忠邦に面談する。水野忠邦も影二郎に用事があるようで、影二郎を待っていた。互いに弱みを持つ間柄。影二郎は水野忠邦の命を受ける代わりに、父・秀信を助けることを約束させる。

水野忠邦が影二郎に下した命とは、天保の改革に反対する勢力、特に専行院を中心とした勢力の動きを潰すことであった。影二郎には、猿面冠者と比丘尼といった輩との対決が待ちかまえていた。

本書について

佐伯泰英
奸臣狩り
光文社文庫 約三三〇頁
江戸時代

目次

序章
第一話 昔の夢
第二話 地吹雪草津
第三話 烏舞片手斬り
第四話 猿面冠者
第五話 鼠山闇参り
終章

登場人物

遠山左衛門尉景元
弘三郎…嵐山の料理人
銀の玉吉…御用聞き
頭抜けの参五郎
今朝次
寒烏の平吉
華六
佐々木一心…南町奉行所隠密廻り同心
鉄砲町の勝五郎
河原屋半兵衛…草津の湯守の長
八巻玄馬…八州廻り
矢板の寅五郎
西念寺一傳…北面武士
五月女
鳶の竹五郎
糸永主水
専行院(お美代の方)
林肥後守忠英
水野美濃守忠篤
美濃部筑前守茂育
前田斉泰…加賀藩主
横山康正…加賀前田家八家
中野碩翁

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