佐伯泰英の「夏目影二郎始末旅 第5巻 百鬼狩り」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第五弾

今回は影二郎が水野忠邦から直々の指図を受ける。二十三年前に忠邦が犯した禍根を断ち切れというのだ。折しも、水野忠邦は老中筆頭になれるかどうかの場面。ここで醜聞をさらけ出して、せっかくの機会を不意にするわけにはいかない。

だが、なぜ二十三年前のことが今になって蒸し返されたのか?その真意は?

舞台は江戸から遠く離れ、九州は唐津。そして長崎へと夏目影二郎、菱沼喜十郎、おこまのおなじみの面々が「狩り」にいく。

今回は海戦シーンも読みどころの一つである。

江戸も末期が舞台のシリーズ。長崎を経由した密輸、もしくはそれ以外の密貿易が背景となっている。こうした不法行為をしなければならなかったのは、各藩の台所事情が著しく悪かったためである。幕末のことを考えると、信じられないが、薩摩藩などは最悪に近い状況だった。

こうした財政状況を何とか乗り切るために手を出していたのが、密貿易である。こうしたことも背景にあり、本書では船を舞台にしたシーンが多い。

海戦などもそうした場面の一つである。

余談だが、幕末において回天の資金を有していたのは、西国の藩に多い。密貿易がしやすかったためであろう。そのため、倒幕の中心となったのも西国の藩が中心である。こうしたところも歴史の面白さだと思う。

さて、水野忠邦が老中へ駆け上るために唐津から浜松へ移転したはなしが冒頭に出てくる。この浜松藩へ領地替えのきっかけとなる、井上正甫の失態の話が佐藤雅美槍持ち佐五平の首」で取り上げられている、併せて読むと本書が一層面白く読めるだろう。

最後に、本作では影二郎の相棒・あかが登場しない。そのかわり、巻八という犬が登場し、あかの代役を務めている。

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内容/あらすじ/ネタバレ

天保十年(一八三九)、旧暦師走。唐津街道の峠に三人の旅人が差し掛かった。父・秀信の命を受けた夏目影二郎一行だ。

今回の要件は、老中・水野忠邦が二十三年前に犯した種を摘み取ることである。その頃、忠邦は肥前唐津の藩主だった。幕閣に入る前のことである。

忠邦は藩鵜匠の岸峰三太夫の娘・お歌と忍び会う関係になっていた。その後、忠邦が浜松へ転封となったため、お歌とは分かれることになったが、今年になってからお歌からの手紙が届いた。手紙には忠邦との間に子があり、育ててきたという。なぜ今になって?

忠邦は影二郎に、このお歌の手元にある忠邦からの手紙を取り戻し、さらには、お歌の息子・岸峰邦之助を始末せよと命じる。

…今の唐津藩は小笠原家が水野忠邦のあとを継いでいる。

影二郎たちは唐津に入ると、すぐ蘭学医師の埴生流之助の世話になった。そこで、数年前から唐津を騒がす百鬼水軍の話を聞く。百鬼水軍は倭寇の末裔だという。国家老の等々力雪鵜が陣頭指揮をして捕縛に走っているが、上手くいっていないとも聞く。

さっそく、影二郎は当代の岸峰三太夫を訪ね、お歌のことを聞く。

そのあと、影二郎は百鬼水軍とおぼしき怪しげな連中と出会う。そして、さらには、鯨漁を仕切っている日野屋主の常安九右衛門から情報をもらい、最近商いを始めた和泉屋夏兵衛が唐津藩と深く関わっていることを知る。

…影二郎はお歌に会うために、長崎へ赴くことになる。長崎には影二郎を追ってきたとおぼしき人物が来ているという。一体誰か。

この長崎への旅は船で行くことになった。船の嫌いなおこまも一緒である。だが、この船旅が思わぬことになり…

…ぼろぼろになりながら長崎にたどり着いた影二郎。さっそく、祝矢七右衛門を訪ね、お歌のことを聞く。そして、江戸の吉原、京の島原と並んで三大遊郭として知られる長崎の丸山にお歌をたずねることになった。

お歌と会った影二郎は、お歌からの条件を聞かされる。一つは邦之助を水野忠邦の実子と認めること、そしてお歌親子に御朱印をだすことである。

清国では英吉利と阿片を巡って戦争をしているという。その阿片がちまたに滞っているという。それを買い叩くのだという。

そんな条件はのめないと影二郎はいうが、お歌は強気である。

話は物別れになったが、影二郎はまずお歌の持っている水野忠邦からの手紙を取り戻さなければならない。どこに隠しているのか…。

そして、お歌の自信の程を不思議に思っていた影二郎は、あるとんでもない話を聞く。お歌とお歌の後ろにいる人物の真の狙いは他にあったのである。

本書について

佐伯泰英
百鬼狩り
光文社文庫 約三八五頁
江戸時代

目次

第一話 木枯らし唐津街道
第二話 呼子沖鯨絵巻
第三話 平戸南海船戦
第四話 長崎南蛮殺法
第五話 野母崎唐船炎上
第六話 吹雪烈風日見峠

登場人物

お歌
岸峰邦之助
埴生流之助…蘭学医師
巻八…飼い犬
岸峰三太夫…鵜匠、お歌の弟
珠吉…勇魚捕り
伊代吉
常安九右衛門…日野屋主
祝矢七兵衛
小暮辰之助
王文河
等々力雪鵜…国家老
等々力紳次郎
等々力昭右衛門
和泉屋夏兵衛
劉白絃
勘九郎親分
菜緒
才太郎…牛太郎
板倉三郎助…黒鍬頭

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