西村貞二の「教養としての世界史」を読んだ感想

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覚書/感想/コメント

本書は一九六六年に書かれている。

四〇年以上も前の著作であることを念頭に置いて読まなければならない。

というのは、この四〇年の間には地域ごとの、もしくは世紀ごとの歴史認識の修正がたゆまずなされており、さらには新事実の発見や、歴史への新たなアプローチというものがなされ、本書が書かれた当時とはだいぶ異なった研究結果が出ている分野があるはずだからである。

なので、本書は参考程度に読まれた方がいいと思うし、私は最新の学説に依った概説書というのも読んでおいた方がいいと思う。

本書のアプローチは、まえがきにこう書いてある。

『「世界史」は、世界の国々あるいは民族の歴史をならべたものではありません。そうではなくて、一見ばらばらな歴史が、じつは相互に緊密に連関している。そういう統一的な見地に立ってはじめて、世界史的把握といえるのです。』

本書が書かれた当時は、このような試みというのがなされていたのだろうが、現在はどうなのだろうか?

私には、一旦構築された全体像というのが、再び分断され、個別の歴史を緻密に組み建て直す作業を行っているような気がするのだが。

そもそも、「世界史的把握」というものは、個別の歴史への認識が変わらないというのを前提に行わなければ成立しないと思う。

なぜなら、個別の歴史の中に一つでも認識を改めなければならない事実が判明した時、それが全体の認識に与える影響がどれだけのものなのか計り知れないからである。

場合によっては全体の再構築を考えなければならなくなるかもしれない。

歯車が一つ狂うだけで、すべてが上手くいかなくなるのと同じだと思う。

もっとも、「世界史的把握」というものができるとしたら、それは依るべき理論的な歴史認識というものがあるときであろう。つまり、歴史とはこうである、もしくは、歴史はこう流れる、といった類のものである。

こうした認識に立てば、個別の歴史の修正がなされても全体に及ぼす影響というのは少ないのかもしれない。

だが、これも、その理論自体が崩壊してしまえば全く意味のない作業となってしまう…。

さて、著者が西欧近世史、西欧近世史学史を専行している人であり、そのためか軸となるのは西欧である。

西欧に対比するものとしては、中国を中心に書かれている。もちろん、他の地域も書かれているが、軸足はこの二つの地域である。

この当時の歴史界の認識なのだろうか、興味深い記述が散見される。

例えば、「地中海世界」の項では、多神教よりも一神教の方が優越していると受け取れる書き方をしている。

ちなみに、この「地中海世界」は、オリエントを含むいわゆる現代の地域でいえばヨーロッパと中近東の古代を概説しているのだが、その表題が「地中海世界」という西欧の歴史の源流となる地域の名を持ってきている点も興味深い。

南アジア、東アジアの古代に関しては「古代のアジア」で概説している。

「古代のアジア」では、中国の歴史を西北異民族と漢民族との抗争の歴史という見方をしており、西北異民族については「文化などロクにもっていません。」とにべもない。

この見方の延長で、モンゴルが捉えられているので、いまひとつ評価が悪い。

清朝を書いている所で『身のほどもわきまえずにモンゴル至上主義をとなえた元朝にくらべて、中国文化を活用した満州人の賢明さは、ほめてよいでしょう』と書かれている。

また、全体を通してなのだが、教科書を読んでいるのと同じような感覚に陥る。

一つには、地域ごとの歴史が分断して描かれているので、全体の位置関係が今一つわかりづらいこと。

そして、地域で語られる時、一つの中心勢力となった王朝などが替わると、前王朝とのつながりがいきなりブツンと途切れて、あたかも歴史の連続性が感じられない部分があること。

こうした点は、教科書と同じように感じてしまった。

本書がとても役に立つのだとしたら、それは、一九六〇年代の日本の歴史学会の認識がこうであったという、歴史学の歴史を学ぶことにあるのかもしれない。

そういうことを思いつつ読み終えた。

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本書について

教養としての世界史
西村貞二
講談社現代新書 約二二〇頁
解説書

目次

まえがき
1 地中海世界
  1 人類の発生とその生活
  2 川から生まれたオリエント文化
  3 多彩な歴史を展開したギリシア
  4 「支配と権力」のローマ
  5 キリスト教のおこり
2 古代アジア
  1 ヒンズー文化の成立
  2 黄色い大地から生まれた中国
  3 遊牧民族の活躍
  4 花ひらく東西交流
  5 東アジア文化圏の形成者
3 中世ヨーロッパとアジア
  1 ヨーロッパの成立
  2 カトリック教会の権威
  3 ゆらぐ封建社会と十字軍
  4 ビザンティン帝国の栄光
  5 イスラムの世界
  6 アジア史の新展開
4 近代のヨーロッパ
  1 ルネサンスと宗教改革
  2 大航海時代はじまる
  3 絶対主義のくにぐに
  4 三つの市民革命
  5 産業革命は世界を変えた
  6 西欧の文化
5 アジアの形勢
  1 中国社会の成熟
  2 最後の征服王朝
  3 イスラム世界の盛衰
  4 インドの停滞
6 帝国主義の時代
  1 自由主義と国民主義
  2 十九世紀の思潮
  3 帝国主義の開始
  4 アフリカ・アジアの植民地化
  5 帝国主義化の中国
  6 日本の近代化とアジア
7 現代の世界
  1 第一次世界大戦
  2 ベルサイユ体制とその矛盾
  3 全体主義の台頭
  4 第二次世界大戦後の世界
  5 アジア・アフリカの民族主義
  6 現代の文化
略年表
索引

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