風野真知雄の「格下げ同心 瀬戸七郎太 情け深川捕物帖」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

瀬戸七郎太。もみあげのあたりが毛ばだったようになっていて、そのようすが狩野派の描く獅子のようだというので、七郎太ではなく、獅子郎太という渾名をもらったことがある。

遣う剣は剣術と柔術を組み合わせた珍しい流派の刀法起倒流。刀は「つぶし巌鉄」といって刃をつぶしている。斬れないかわりに、やたら頑丈にできている。

もともとは南町奉行所・市中取締掛与力だったが、ある事件がもとで、同心へ格下げされてしまう。実際、こうした処分があったのかは不明だが、同心から与力への昇格というのはあったようだ。逆もあり得るだろうという設定なのかもしれないし、こうした処分が実際にあったのかもしれない。

「新米」同心となった瀬戸七郎太は、与力に戻るために必死に手柄をたてようとする。この七郎太を手助けするのが、岡っ引き権蔵の下っ引きである丈助。丈助も新米の下っ引きである。「新米」コンビによる捕物帖である。

時代は明確化されていないが、南町奉行が鳥居耀蔵で、在職期間が天保十二年(一八四二)十二月末から、天保十五年(一八四四)秋までと短いので、かなり絞り込みができる。

物語の最初で、芍薬が出てくるので、すでに春から初夏である。つまり、天保十二年という事はあり得ない。また、鳥居耀蔵は天保十四年から勘定奉行を兼務するが、その様子もないので、物語は天保十三年と思える。

終わり方を見ると、シリーズ化を想定して書かれている。おそらくシリーズ化するのだろう。

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内容/あらすじ/ネタバレ

南町奉行所・市中取締掛与力の瀬戸七郎太は霊岸島塩町で起きた騒ぎの現場に出動した。店に二人組が立てこもっているのだ。南町奉行の鳥居耀蔵も出動してきた。

七郎太は店の中に突入した。立てこもっている二人の一人は、父親が若年寄りだという。事実なら大物の倅ということになる。だが、七郎太は二人を叩きつぶした。

後日になり、二人の若者のいうことは事実だったようで、七郎太には与力から同心へ格下げという、ほぼ前例のない処分が下された。担当は本所深川回りだ。七郎太は与力に戻るために、手柄を立てる決意をした。

七郎太に娘が縋ってきた。殺されるという。番屋に預けていたが、戻ってみると娘はいなかった。やがて、殺されて見つかった。七郎太はしまったと思った。

娘は番屋に預けられる時に芍薬の花を持っていた。その色が珍しいと下っ引きの丈助はいった。どうもその芍薬が事件に絡んでいるのではないか。

旧暦五月二十八日は両国の川開き。七郎太もかり出されていた。人混みを分けて丈助がやってきて、人殺しがあったという。煙草卸商人の鞍馬堂が殺されたのだ。

手には紙切れが握られ「線香の匂いも暑き寺の町」と書かれている。が、さっぱりわからない。

そういえばと丈助はいう。最近、寺町で夕暮れになると方々から娘が集まるという話があるという。真福寺という寺で食べ物を作っているらしい。真源という若い坊主が娘達に料理を教えているのだ。

これが何か関係あるのかと七郎太は考え、周囲を嗅ぎ回ったが、何も出てこない。やはり、句に何かが隠されているのか…。

この調べに七郎太は丈助を使っていた。父親は仏師をしていたのだが、半年前に殺されたのだという…。

無惨な仏が見つかった。両方の手首から先がすっぱりと斬られているのだ。なぜ?手によほどの特徴があるというのか。

七郎太は千秋斎という手相見に話を聞いてみた。すると、くだんの死体の男に似た男を見たという。さっそくその長屋に行ってみたが、当の本人がいた。仏が生きているはずがない。別人だ。

七郎太の妻・知香が男の子を生んだ頃、深川の外れ亀戸村で、おそでという女が民次のことを思っていた…。

義父の庄右衛門が七郎太を芝居に誘った。あまり気乗りはしなかったが、若村梅三郎という役者の演技は見事だった。

女が包丁を胸に刺して倒れていた。女は若村梅三郎と付き合っていたのだという。それがなぜ?若村梅三郎は姿を消していた。まさか、若村梅三郎が女・おいくを刺したというのか。最近になって別れ話も出ていたようだ。

聞いて回ると、もう一人男の姿があることが分かった。そして、三人は藤沢宿の近くで育った幼なじみということが分かった。もう一人は黒炭屋音右衛門。いまや紀伊国屋のみかん船のような伝説をつくりあげた男である。

旧暦七月十三日盂蘭盆会。深川で下谷の岡っ引き三次が殺された。なぜ下谷の岡っ引きが深川で殺される?

死ぬ前に、かすかな声で、亀が鳴いたぜと、いったという。何のことをいっているのだ。巾着は盗まれておらず、物取りの仕業ではない。

三次が追っかけていたのは、仏師殺しだった。仏師殺し、丈助の親父の一件と繋がっているのか?三次は何かをつかみ、それがゆえに殺されたのだ。

丈助の親父の一件もたどっていくと、どうやら秘仏の贋作を作らされていた節があった。事は、贋作に絡んでくるのか…。そうだとしても、一体何が目的なのだ…。

本書について

風野真知雄
格下げ同心 瀬戸七郎太 情け深川捕物帖
ベスト時代文庫 約二六〇頁
江戸時代

目次

第一話 深川の花
第二話 寺町の香り
第三話 霧の川
第四話 風ぐるま
第五話 泣き仏

登場人物

瀬戸七郎太…与力→同心
知香…妻
おりく…長女
八郎丸…長男
おうみ…次女
一郎左…次男
庄左衛門…義父
おしげ…義母
丈助…下っ引き
権蔵…岡っ引き
矢井田満之助…年番与力
鳥居耀蔵…南町奉行
里中左馬之助…年寄同心
おたま
鞍馬堂…煙草卸商人
真源
又蔵
千秋斎…手相見
おそで
民次
仁助
滝乃屋…反物屋
伊蔵…滝乃屋手代
若村梅三郎
おいく
黒炭屋音右衛門
三次…下谷の岡っ引き
三島惣太郎…同心
東光…住職、七郎太の剣術仲間
円二郎…丈助の父親
若狭屋喜左衛門…札差
岡野信三郎
良治

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