覚書/感想/コメント
史実が不正確だとか、そういう純粋に学問的なところでの評価の低さではない。そもそも、本書の記述内容に関して何かを述べるほどの能力も知識も持ち合わせていない。
あとがきに、内容の選択に偏りがあり、文章がいくぶん情緒に流れたと書いている。内容の選択は、短い新書版という制限にあっては当然の事であるし、その取捨選択の結果なされたもの次第によって、面白さが極端に変わるのが新書の魅力でもあろう。問題は「情緒に流れて書いた」という点である。
私は本書を購入するに当たって、「スペインの歴史」を知りたいと思ったのであり、「物語」を読もうと思ったのではない。「物語」を読むつもりなら、「著名な小説家」の小説でも購入して読む。
本書を読み終えての感想は、これなら、数倍の値段のする専門書を購入した方がマシだというものだった。少なくとも、スペインを扱った他の新書を読むのが正解だと思った。同時に、本体価格が千円弱、読書時間が数時間。それだけの金と時間をかけて読む本ではないとも思った。
新書を購入するに当たって、何を求めるか?
末尾の「中公新書刊行のことば」には、こう書かれている。
「現代を真摯に生きようとする読者に、真に知るに価いする知識だけを選び出して提供すること、これが中公新書の最大の目標である」
他社の新書も似たり寄ったりの目標なりを建てている。
私が新書に求めるのは「入門書」もしくは「入門書の入門書」である。
いきなり専門書を読むのは、難しすぎる。また、専門書は売れないがゆえに、高価である。そもそも何から読めばいいか分からない。
そういうときに、ガイド、道標となるのが新書であると思っているし、新書の果たす役割だろうと思う。
ほんの少し興味を持った時に、その分野が本当に自分の興味を満たすものであるのかを解答してくれるのが新書なのだと思ってきた。
だから、だからである。新書では「小説風」のものなど読みたくない!!!
文章が読むに耐えうるのであれば、まだ我慢して読もうと思うが、これがまたヒドイ。文学青年崩れ、かくありき、という見本のようであり、読んでいて背筋がむずむずとかゆくなる。
幾度本書を破ろうと思った事か。出版物に対する敬意がなければ、本当に破いていたところだ。
人気のある小説家が新書を書くことがあるが、小説での文体とガラリと変えてくる。
そこには、小説と新書の果たす役割が違うという意識がはっきりと読取れる。
つまり、小説家にしてみると、新書は「小説風」の表現をする場ではないという事なのだろう。
学者は学者らしく、己の本分を全うすべきである。
なれないものに手を出して、恥をかくのは己の勝手だが、読者の貴重な時間と金を浪費させるのは許せない。
ある読書家が、一生で読める本というのは、およそ三万冊くらいだろうと言っているのを聞いた事がある。一日二冊、一年間で七三〇冊。その四十年分である。
普通に考えて不可能な数字だ。
一年間で百冊を読めば、おそらく一般的には読書家と言われるだろう。すると、三万冊は三百年分に相当する。
一万冊に満たないというのが、一生に読める本の妥当な数字だろうと思う。この一万冊でも多い方だと思う。
だが、この一万冊などは、今まで人類が出版してきた本の数を考えると、ごくわずかな数字でしかない。それが、我々が一生の中で出会う本なのだ。
ならば、出来うるかぎり無駄な本というものは読みたくないものである。
そして、出来うるならば、すばらしい本だけを読み続けたいものである。
出版社と著者はそうしたすばらしい本だけを世に送り出す努力をすべきである。
ふざけた企画など迷惑なだけだ。
内容の紹介などする気はない。
興味があれば、読んでみても良いのではないか。その前に、他の新書を読む事をオススメする。
本書について
物語 スペインの歴史 海洋帝国の黄金時代
岩根圀和
中公新書 約三〇〇頁
解説書
目次
まえがき
第一章 スペイン・イスラムの誕生
第二章 国土回復運動
第三章 レパント海戦
第四章 捕虜となったセルバンテス
第五章 スペイン無敵艦隊
終章 現代スペイン
あとがき