佐伯泰英の「夏目影二郎始末旅 第4巻 妖怪狩り」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約4分で読めます。
記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

シリーズ第四弾

天保の改革を進める水野忠邦。この水野忠邦の三羽烏といわれる書物奉行渋川六蔵、金座の後藤三右衛門、目付の鳥居耀蔵の三人。

今回、影二郎が「狩る」のは、この三羽烏の中でも妖怪の異名を取った鳥居耀蔵。

この鳥居耀蔵は国定忠治に狙いを定めて、何やら仕掛けてきた。一体この裏には何があるのか?鳥居耀蔵の真の意図が分かった時に、すべてのからくりが解ける。

さて、本作で、影二郎と吉祥天のおたきとの間で交わされる次の会話。

「いえ、私が申すは民百姓の上がりは四公六民の決まりに照らして幕府に納め、お上はそれで国を保たれるということでございます。隠れ田、隠れ里は徳川幕府の定めに反し、幕藩体制を弱めます」

「幕府誕生から二百余年、あちらこちらに幕藩体制の綻びが出ておる。南山領内の隠れ里からあがった収益を定法通りに江戸に送ったとしよう。それが天下万民のために厳正に使われるという確証があるか、おたき」

天下万民のために税金が厳正に使われていない現在の日本。いつの時代でも、こうしたことは起きてきた。そして、行財政に綻びがあちこちに出ているのも、同じである。

本作の舞台が、幕末も近い時代。だが、この時代において、まさか幕府が崩壊するとは誰が想像できたであろう?

一度綻びを生じはじめた組織は、その組織自体が自らの血を流さないかぎり、綻びを直すことはない。転がり行く先は崩壊しかない。こうしたことは様々な歴史が教えてくれている。

もしかしたら、我々は本書と同じような時代に生きているのかもしれない。そして、現在の日本の政治体制、経済体制が永久に続くと考えるのは単なる神話なのかもしれない。

菱沼喜十郎は道雪派の弓の名人。

道雪派の流祖は元和期の伴喜左衛門一安道雪。建仁寺の水番の喜左衛門が吉田六左衛門重勝雪荷に弓術の教えを乞い、雪荷の許しを得て名を改めて開いた弓術である。

これに入門して、自ら弓術八射と名付けた速射を独創して会得。

最後に豆知識。待乳山聖天社の待乳山。元々は真土山と書き、ほんものの江戸の土の山という意味だったそうだ。

スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

天保十年(一八三九)陰暦仲夏。鳥居耀蔵の命で書生が召し捕られる現場を夏目影二郎は目撃した。この召し捕りに参加しているのは、小人目付の鈴木田右内であった。

影二郎はこの日、勘定奉行で父の常磐豊後守秀信に呼ばれていた。そして、秀信は影二郎を連れ、隣家の豆州韮山の代官江川太郎左衛門英龍の屋敷に向かった。

そして、英龍が話し始めたのは、田原藩の渡辺崋山やシーボルト門下生の高野長英ら、個人的な集まりである蛮学社のことであった。目付の鳥居耀蔵は徹底した洋学嫌い、対して英龍は先進的なものに対する理解がある。

この鳥居耀蔵が蛮学社に関わり合いを持つ人間を捕縛する気で動いているらしいという。英龍も鳥居の手が及ぶかもしれない。そのことを念頭に置いてもらいたいというのが今回の話であった。そして、影二郎は英龍から「西洋事情御答書」を預かった。

翌日、影二郎は鳥越のお頭と呼ばれている浅草弾左衛門を訪ねた。そして、鳥居耀蔵に関して教えを請うた。
蛮社の獄が始まった。

…期を一にして、大事件が起きた。上州の侠客、博打打ちの国定忠治一行が江戸で押し込み強盗を働いたという。家族と奉公人を斬殺しての犯行だという。

そして、すぐに影二郎は父・秀信から命を受ける。相手は国定忠治。だが、影二郎にはこの事件が国定忠治がやったものとは思えない。偽の国定忠治の犯行である。それを証明するには忠治に会うしかなかった。

すぐさま影二郎は、上州へと向かい、忠治の弟・長岡友蔵に会った。友蔵は上州から奥州にぬける南山御蔵入田島宿の名主・花村杢左衛門を訪ねてみろという。忠治は関八州の外に出ているらしい。南山御蔵入は幕府直轄の天領である。

…道中で影二郎は吉祥天のおたきと名乗る女と出会った。そして、おたきと向かう方向が同じなため、道連れになった。

道中、影二郎を忠治の仲間と思った、鬼怒川の伝三らの執拗な嫌がらせもあったが、とうとう忠治の子分の一人蝮の幸助に出会うことが出来た。そして分かったのは、鬼怒川の伝三らの後ろにいるのは、満田左内という徒目付のようだ。

村に着いた影二郎だが、肝心の花村杢左衛門がいない。なんと、拐かされたという。

…江戸から菱沼喜十郎が駆けつけてきた。そして、今回の国定忠治に絡んではどうも妖怪鳥居耀蔵の暗い糸が感じられると父・秀信がいっていたと告げてきた。だが、一体何で国定忠治を押し込み強盗として処断したいのだろうか。

それに、徒目付の満田左内の動きも腑に落ちない点がある。

影二郎と喜十郎は、国定忠治に会うために村を出発した。そして、この道々で、このあたりに漆の隠し林があるという話を聞く。

本書について

佐伯泰英
妖怪狩り
光文社文庫 約四一〇頁
江戸時代

目次

第一話 本所深川暗殺指令
第二話 南山御蔵入女旅
第三話 山王峠槍試合
第四話 駒止峠隠れ里潜入
第五話 明神滝暴れ流木
第六話 三味線堀舟戦

登場人物

鈴木田右内…小人目付
甚三…御用聞き
吉祥天のおたき
鬼怒川の伝三
猪吉
国定忠治…上州の侠客、博打打ち
蝮の幸助
日光の円蔵
八寸才市
長岡友蔵…忠治の弟
花村杢左衛門…南山御蔵入田島宿の名主
無想師…観音寺住職
満田左内…徒目付
勢左衛門…日光宿七里の名主
遠山左衛門尉景元…勘定奉行

タイトルとURLをコピーしました