記事内に広告が含まれています。

佐伯泰英の「秘剣・悪松第3巻 秘剣乱舞」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約5分で読めます。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

シリーズ第三弾。最大のピンチが一松を襲う。しつこい薩摩の魔手にやえが落ちたのだ。やえを奪い返すために一松は一人薩摩に対決を挑む。

前作で水戸藩との関わりが出来たようで、スルリと関わりが消えたようにも思えたが、本作で強い関わりが出来る。

一松は御老公こと徳川光圀を守るために影警護、つまり用心棒となるのだ。徳川光圀に敵対するのは、現藩主・徳川綱条の意向を汲んだ藤井紋太夫、そして徳川綱吉の側用人・柳沢吉保である。

徳川綱条は自分の思うような政治をしたいと考えているが、先代の光圀の威光が強すぎて、思いのままにならない。まずは光圀派の力をそぎたい。

光圀としては綱条に政治を任せるのはやぶさかではないのだが、綱条の後ろに柳沢吉保がいるのが気に入らない。幕閣が水戸藩を思い通りにしようとする姿勢が見えるのを牽制したい。

その柳沢吉保だが、徳川光圀が編纂している「大日本史」が気にくわない。のちに水戸学の代名詞となる歴史書である。「大日本史」は神武天皇から後小松天皇までを記述していく過程で尊王思想が流れている。

これが柳沢吉保にとっては朝廷を崇めるもの、徳川幕府の権威を失墜させるものとして映る。そこで、光圀を早い段階で引きずり下ろしたいのだ。

徳川綱条と柳沢吉保の思惑が一致して、光圀を狙うようになる。また、柳沢吉保の後ろには将軍・徳川綱吉がおり、この思惑とも一致している。

一方、徳川光圀には武芸に秀でた近習の者がいない。佐々木介三郎、安積覚兵衛の二人は学者であり、剣術の方は今ひとつである。

一松は一松で薩摩に狙われている。水戸藩の庇護を受けられるのなら、これに勝るものはない。ここでも思惑が一致した者がいる。

こうして、対立軸が出来上がっていくのが本作である。

ちなみに「大日本史」は徳川光圀の存命中には完成せず、遙か先の明治時代に完成を見る。光圀の存命中にほぼ完成をみたのは、本紀、列伝である。朱子学の考えをとっており、明から亡命してきた朱舜水が大きな影響を与えている。

この「大日本史」は幕末において思想面で多大な影響を与えた。

大きな特色としては、神功皇后を歴代の帝から除いて后妃伝に入れ、大友皇子を帝に加え、南朝正統論を唱えたところにあるようだ。

さて、生来一匹狼で生涯一武芸者として生きていきそうな一松がいつまでも徳川光圀の影警護をやるのだろうか?

当面は利害が一致しているので、くっつくことになるだろうが、その内一松は強い相手を求めて諸国を放浪するような気がする。

何となく一松に宮本武蔵の若き日を重ねてしまうのは、私だけだろうか。

スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

連雀寺を訪問して大安寺一松は嫌な予感にとらわれた。清泉尼が怪我をした姿で一松を出迎えたのだ。やえが薩摩の手に落ちた。一松は一気に江戸に入って薩摩屋敷を窺うか迷っていた。

その一松に薩摩の探索方・萬次郎が近づいてきた。やえの身柄は安全だという。その萬次郎に一松は明日にでもやえを迎えに薩摩藩江戸下屋敷に参上すると告げた。こう告げたものの、一松はすぐには薩摩藩江戸下屋敷には向かわなかった。ある考えがあった。

薩摩藩邸では一松の一件について、家老以下首脳が頭を揃えていた。数ヶ月を要して、捕獲作戦が進んでいたのだ。揃えた数は五十人。指揮を執るのは大番頭の南郷多門助である。実戦部隊は物頭の鈴木式部が指揮を執る。その頃、やえは庵の一室に囚われていた。

三日経っても一松は現われなかった。

だが、一松は海から南品川へ姿を現わしていた。激しい雨に見舞われる中、一松は薩摩藩江戸下屋敷に殴り込みをかけた。

激しい乱戦の中、一松は左股に矢を受けた。そして投網を投げかけられ一松は捕まった。この闘いで十一人が犠牲となり、三十数人が怪我を負わされていた。

様子を外で窺っていた者がいた。水戸藩家臣の佐々木介三郎と安積覚兵衛の二人だった。

捕らえた一松に薩摩藩士は恨みを晴らさんばかりに折檻を加えた。

一松が傷だらけになっている頃、薩摩藩の江戸家老市来彦左衛門は水戸藩の付家老・中山備前守の呼び出しを受けた。何のことかと思っていると、中山備前守は清泉尼と御老公が親しい仲という。御老公とは前水戸藩主の徳川光圀だ。市来彦左衛門の背筋に悪寒が走った。

市来はやえを清泉尼の所に戻さざるを得なく、そして一松も藩邸から出さなければならない状況へ追い込まれた。だが、一松は藩邸の外に出した後、間をおかず始末することにした。

鈴ヶ森の刑場まで一松を送って、そこで一松を始末する手筈を整えた…。

吾妻橋近くの水戸藩蔵屋敷で一松は治療を受けた。

その一松がある程度動けるようになると、薩摩の目を誤魔化しながら久慈川の湯沢の湯まで連れて行くことになった。傷をなおすための湯治だ。ここにはやえが来ていた。

一松は怪我を治しながら稽古を始めた。厳しい稽古にも絶えられるだけ体は快復してきた。いつしか秋の気配が忍び寄っている。この中、一松は秘剣乱舞と名付ける秘剣を編み出していた。それは秘剣雪割りの連続技である。

やえと二人で日光にお参りに行くことにした。途中で娘十人ほどに初老の男の一行と一緒になる。

事件に巻き込まれるが、日光を満喫した二人を佐々木介三郎が待っていた。御老公が近々江戸に行くことになったので、影警護を頼むという。

本書について

佐伯泰英 秘剣・悪松3
秘剣乱舞
祥伝社文庫 約三〇五頁
江戸時代

目次

第一章 愛惜一之江村
第二章 鈴ヶ森百人斬り
第三章 手負い一松
第四章 華厳の滝荒行
第五章 小金原乱戦

登場人物

小金の岸太郎
校倉真八郎
種田利ヱ門
徳川光圀…前水戸藩主
佐々木介三郎
安積覚兵衛
中山備前守…付家老
竹中清右衛門…水戸藩元町奉行
狩谷信吾
はつ
志村了庵…医師
石原不伝…医師
茂平…女衒
弦蔵…渡世人
野州の錦右衛門(今市の鈴次郎)
瀧本伝八郎
(薩摩藩)
萬次郎…薩摩藩探索方
大岩の安吉
市来彦右衛門…家老
南郷多門助…大番頭
鈴木式部…物頭