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金庸の「連城訣」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

時代がいつをモデルにしているのか分からない。というよりは、そうしたものは必要ないのかもしれない。

本書は作者があとがきで書いているように、作者の幼少期に実際に聞いた話からヒントを得て作品化されたものである。

そのためなのか、本書は、他の金庸作品と比べる場合に、「最も酷い目にあう主人公」と評されるようだ。確かに、出だしから悲惨きわまりない。

陰謀によって牢獄にぶち込まれ、右手の指は五本とも切られ、両肩の肩甲骨は孔があけられ、鎖を通して鉄の足かせと手かせに繋がれる。

牢を逃げ出したあとも、凶悪な破戒僧と勘違いされて足の骨は折られるわ、落花流水という四人の豪傑に追いかけられるわ。いいことがない。

だた、こうした中でも主人公は徐々に強くなっていき、ある時を境に飛躍的に成長し、最後には達人の領域に達することになる。

だが、本人には達人になったという自覚が全くないため、武芸を使って大活躍をするという展開にはならない。そうした点に、イライラする人もいるかもしれない。

達人という自覚がないので、狄雲は度々窮地に立たされる。その度に助けてくれるのが、刀槍を通さない宝衣、大雪山の烏蚕蚕糸で織り上げられてた「烏蚕衣」である。便利な着物だ。

狄雲のキャラクターも自身が認めるように、愚鈍な田舎者であり、颯爽としたヒーローというわけではない。

が、逆に「正義」というものへの判断というか執着というのもは、他の登場人物の誰よりも強く、それがこの作品の唯一の救いとなっている。

それが、作品の本来は悲惨であるはずの部分を救い出し、最後のエンディングのささやかな幸せへと導いてくれているのである。

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内容/あらすじ/ネタバレ

湘西沅陵の片田舎で若い男女が勝負の最中だった。男は狄雲。女は狄雲の師・戚長発の娘・戚芳であった。そこに、客人が戚長発を訪ねてきた。

戚長発の兄弟子・万震山の弟子・卜垣と名乗った客人は、万震山が「連城剣法」を習得したので、祝にやってきてくれというのだ。戚長発は万震山が「連城剣法」を習得したのは信じなかったが、祝いに行くことにした。

戚長発は狄雲と娘の戚芳を連れ、三人で万震山のところへ向かった。この宴席上で闖入者を狄雲が偶然追い出したことから、万震山の客人達は狄雲を褒め称え、逆に万震山の弟子達は面目を失ってしまう。

弟子達は狄雲を呼び出して袋だたきにする。その姿を見ていた一人の老乞食が狄雲に技を授けてくれた。それは今までに狄雲がならったものとは同門の技であったが、解釈が異なるため見も知らない技だった。

この技を使って狄雲は万震山の弟子達をやっつけてしまう。これを目の当たりにした万震山と戚長発は別室に移動して激しく口論する。そして、万震山の悲鳴が聞こえ、戚長発の姿は消えていた…。

狄雲と戚芳は留め置かれていたが、今度は狄雲が強姦魔、強盗と勘違いされ、牢獄に入れられてしまう。

右手の指は五本とも切られ、両肩の肩甲骨は孔があけられ、鎖を通して鉄の足かせと手かせに繋がれていた。

誤解であることを狄雲は主張したが、受け入れられなかった。

同房には恐ろしい目つきで狄雲を睨む男がいた。一年ほどが経ち、男との会話はそれまででも十語にも満たない関係であった。四年目の春には狄雲は出獄をする気持ちをなくしていた。

その狄雲を絶望の淵に陥れたのは、戚芳が万震山の息子・万圭と結婚したという話を聞いたからだ。この世への未練をなくした狄雲は自殺を図った。

狄雲を助けたのは同房の男だった。名を丁典という。丁典は狄雲のことをずっと敵の人間だと思っていたというのだ。

果たして、丁典を狙った刺客達が牢内に侵入し始める。だが、丁典は身につけた「神照経」を使ってことごとく葬り去る。

狄雲は丁典に心酔するようになり、丁典から「神照経」を学び始めた。と同時に、自分が牢に送り込まれたカラクリを丁典が解き明かしてくれた。

二年あまりが経った。この日、丁典はイライラしていた。そしてついに牢獄を出てある所にあることを確かめに出かけた。すると、丁典の許婚である凌霜華が亡くなったということを知った。

遺体を入れた棺桶には猛毒が塗っており、丁典はそれにやられてしまう。死の間際に丁典は狄雲に自分の遺体は凌霜華と一緒に葬ってくれと頼み、「連城訣」の秘密を伝えた。

狄雲は丁典の遺体を抱えながら逃げた。途中で以前に丁典を襲撃した僧の一人、宝象に遭遇してしまう。狄雲は逃げるためにあらゆる策を練り、ついには偶然から逃げ出すことを得た。

だが、この時に狄雲は宝象の衣服を着ており、頭を坊主にしてしまったために、一味のものと勘違いされてひどい目に遭う。宝象は西蔵青教の血刀悪僧という極悪非道の一味だったのだ。

狄雲は水笙という娘らに追いかけられようとしていたまさにその時、助けられる。助けてくれたのは宝象の師父で血刀老祖と名乗る僧だった。血刀老祖は狄雲を助けるとともに、水笙を人質として連れ去る。

水笙は落花流水と呼ばれる四人の武芸の達人の一人・水岱の娘である。落花流水の四人と血刀老祖、狄雲らの追いつ追われつの逃亡劇が始まる。血刀老祖は故郷の西蔵を目指す。

途中で一行は雪崩に巻き込まれ、足止めを食らう。そして、その地で落花流水と血刀老祖の死を決した戦いが始まる。

一人一人の技量はほぼ同じである。だが、血刀老祖の狡猾な戦術が功を奏して、花鉄幹を除いた三人を葬り去る。

が、血刀老祖も力の限界まで使い切っていたため、余力はなかった。その中で、血刀老祖、花鉄幹、狄雲、水笙の四人による駆け引きが始まる。

駆け引きの中で、狄雲は思いもかけない形で「神照経」と邪悪な「血刀経」の相乗効果を得ることができ、「神照経」を会得してしまう。そして、血刀老祖を葬り去ってしまった。

残ったのは三人。だが、これまでの戦いの中で品格を落としてきた花鉄幹を他の二人は信用していなかった。かといって、狄雲と水笙の中も互いに不信に満ちあふれていたのではあるが…。

雪が解けるまでの半年、狄雲は宝象が身につけていた冊子の「血刀経」を見て血刀経の内功と刀法の全てを習得していた。「神照経」を身につけていた狄雲は正邪両方の最も優れた武芸を身につけたことになる。

そして、雪が解けた。狄雲は三つのことしか頭になかった。一つは、故郷に帰って師父を探すこと、第二に、丁典と凌霜華を合葬すること、第三に仇討である。

本書について

金庸
連城訣
徳間文庫 計約六七五頁

目次

第一章 田舎者町へ行く
第二章 牢獄
第三章 菊花麗人
第四章 空心菜
第五章 鼠汁
第六章 血刀老祖
第七章 落花流水
第八章 羽衣
第九章 梁山泊と祝英台
第十章 唐詩選
第十一章 壁を築く
第十二章 大宝蔵

登場人物

狄雲(てきうん)
戚長発…狄雲の師、梅念笙の三番弟子
戚芳…戚長発の娘、狄雲のきょうだい弟子
空心菜…戚芳の娘
万震山…梅念笙の一番弟子
万圭…万震山の息子
魯坤…万震山の弟子
卜垣…万震山の弟子
呉坎…万震山の弟子
桃紅…万震山の妾
言達平…梅念笙の二番弟子
梅念笙…「連城訣」の正当な所有者
丁典…狄雲の同房囚、「神照経」を会得
凌霜華…凌退思の娘
凌退思…知事
宝象…西蔵「血刀門」の使い手
血刀老祖…宝象の師父
汪嘯風(おうしょうふう)
水笙…水岱の娘
水岱…落花流水の一人
陸天抒…落花流水の一人
花鉄幹…落花流水の一人
劉乗風…落花流水の一人