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藤沢周平の「麦屋町昼下がり」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

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覚書/感想/コメント

本書に収録された短編は、いずれもが藤沢周平作品の中では珍しい長さの短編である。藤沢周平の場合、ほとんどの短編が、本書に収録されたものよりも短い。

そのため、本書に収録されたものは、藤沢周平作品の中では、感覚的に短編と言うよりは中編に近いものであるかもしれない。

また、いずれもが武家もので、市井ものが入り込んでいないのも一つの特徴であろう。

さて、印象的なのは「山姥橋夜五ツ」だった。親友の自裁にともなって主人公が真相を突き止める物語であるが、最後で、どんでん返しがあり、コミカルな印象を残す作品である。

どんでん返しがあるといえば、「榎屋敷宵の春月」だろう。どんなどんでん返しがあるかは本書でご確認頂きたい。

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内容/あらすじ/ネタバレ

麦屋町昼下がり

片桐敬助は、御蔵奉行で上司の草刈甚左衛門から呼ばれて帰りが遅くなった。呼ばれたのは縁談の話だった。だが、相手は片桐敬助より身分が上の家柄だった。

その帰り道、前方で人が争うような声を聞いた。果たして、男が女を追いかけていた。片桐敬助は女をかばうと、男がいきなり斬りかかってきた。身を守るために剣を抜いて、男を斬ってしまったが、男は女の舅で、女に無体を言いかけてきたという。だが、悪いことに上士の弓削伝八郎だった。さらに悪いことに伝八郎の息子・弓削新次郎は天才的な剣士である。片桐敬助は気が重くなった。

藩の中では弓削新次郎が片桐敬助との間に一悶着あるだろうという噂が立った。片桐敬助は今のままでは弓削新次郎に勝てないのを自覚していた。そこで道場に行き、善後策を練っていると、師匠が大塚七十郎に教わると良いかもしれないという。

三ノ丸広場下城どき

次席家老の臼井内蔵助は、守屋市之進の話を聞いて衝撃を受けていた。江戸の側用人・三谷甚十郎が新海屋とのつながりの真相に気が付き、三谷からの使者が中老の新宮小左衛門をたずねてくるというのだ。その密書を奪わなければならない。

三谷は使者に護衛を付けて欲しいと頼んできた。だが、その人選を任されたのは、守屋市之進だった。臼井内蔵助はまだ自分に利があるのを確かめた。さて、その護衛の人選だが、臼井にはある人物が頭にあった。粒来重兵衛である。臼井との間には因縁がある。成功してはならない護衛である。適任だと思った。

粒来重兵衛は護衛を引き受けた。そして、果たして護衛に失敗した。粒来重兵衛は罠にかけられたのを覚った。だが、一体誰が、何のために?

その探索の一方で粒来重兵衛は鈍った体を鍛え直し始めた。

山姥橋夜五ツ

柘植孫四郎は息子の俊吾が道場で喧嘩をふっかけていると聞き驚く。そして、原因は瑞江を離縁したことだろうと思った。離縁したのは、瑞江に不義の噂が立ったためだった。

そうした中、塚本半之丞が腹を切ったという。遺書が柘植宛に書かれていた。そしてその内容は藩の秘事にかかる驚くべきものだった。先代の藩主は病死ではなく謀殺されたのだという。塚本半之丞はそのことを口に出来ず、思い悩んでいたようだった。

柘植孫四郎は塚本の遺書を読んで、自分の家禄が削られた事件を思い出していた。もしかしたら、先代の藩主の死と関係があるのかもしれない。

柘植孫四郎はことの真相を突き止めるために動き始めた。まずは、塚本半之丞の遺書に書かれていた黒川六之助を訪ねよう。黒川六之助の話は興味深かった。先代の藩主は、その死の前より黒い陰がちらついていたらしい。先代の藩主が死んで、一体誰が得をするのか?そこが重要だと思った。

榎屋敷宵の春月

家老の宮坂縫之助の死去にともない、後任の執政入りの人選が始まろうとしていた。田鶴は夫・寺井織之助が執政になるための運動がはかばかしくないのを知った。競争相手は露骨に金をばらまいているらしい。だが、寺井家には金銭の余裕はなかった。

今回の競争には古い友達の三弥の夫も加わっている。田鶴は三弥にだけは負けられないと思っていた。

三弥は長兄・新十郎の気持ちを知っていたはずである。田鶴にとって新十郎は特別な存在だった。だから、三弥が他家に嫁いで、新十郎が自裁したときには衝撃を受けた。

田鶴はお理江さまか呼ばれて小谷家に向かった。そして、門前でお理江さまの兄・小谷三樹之丞と出会った。お理江さまとの時間が過ぎ、帰ることになると、お理江さまが三弥が早くに来て兄・小谷三樹之丞とあっていたという。小谷三樹之丞は藩政に影響力を持っている人物である。田鶴は冷や水を浴びせられた気分であった。

その帰り道、家の前で斬り合いが行われていた。襲われていたのは江戸屋敷からきた関根友三郎という者だった。

本書について

藤沢周平
麦屋町昼下がり
文春文庫 約三二〇頁
短編集 江戸時代

目次

麦屋町昼下がり
三ノ丸広場下城どき
山姥橋夜五ツ
榎屋敷宵の春月

登場人物

麦屋町昼下がり
片桐敬助
奈津…妹
草刈甚左衛門…御蔵奉行
弓削新次郎
野口源蔵…師匠
大塚七十郎
寺崎満江

三ノ丸広場下城どき
粒来重兵衛
茂登
臼井内蔵助…次席家老
守屋市之進
椎名又左衛門…師匠
椎名安之助

山姥橋夜五ツ
柘植孫四郎
俊吾…息子
瑞江…元妻
塚本半之丞
野々村新蔵
黒川六之助
恩田作摩…中老
小出徳兵衛…大目付
栗林嘉平太…元大目付
金森屋長七

榎屋敷宵の春月
田鶴
寺井織之助…田鶴の夫
三弥
お理江
小谷三樹之丞…お理江の兄
関根友三郎
村瀬又左衛門…大目付
平岐権左衛門…家老
畑中喜兵衛…家老