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藤本ひとみの「聖戦ヴァンデ」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

十八世紀末のフランス革命の時期、フランス国内で起きたヴァンデの反乱(ヴァンデ戦争)を舞台にした小説。通常、世界史を学んだことがある人でも知らないようなテーマだが、この反乱は相当大規模なものであったらしい。

革命中、最も凄惨な殺戮が行われ、40万ともいわれる死者を出している。終結させたのはナポレオンである。

フランス革命を経て王権から脱却したフランスにとって、この殺戮は革命の闇の部分であり、意図的なのか、最近まで忘れ去られていたという。一種のタブーだからだろう。

本書で描かれるのは、この40万におよぶといわれる凄惨な殺戮の現場ではなく、最初の蜂起を描いている。この蜂起は7万以上におよぶ大規模なものであった。

だが、この蜂起もナントの攻略以降は悲劇的である。

その様子は下巻で詳しく語られているが、これを皮切りに、やがては40万におよぶ殺戮が行われるのかと思うと、いくら内戦とはいえ、歴史の酷い一面を見た気がする。

主人公となるのは三人。ジュリアン(マルク・アントワーヌ・ジュリアン)、アンリ(アンリ・デュ・ヴェルジエ・ドゥ・ラ・ロシュジャクラン)、ニコラ(ニコラ・ラザール・オッシュ)である。この中でも主要なのがジュリアンとアンリである。

ジュリアンが革命側の人間として、アンリが革命に対抗するカトリック王党軍側の人間として登場する。ニコラは少し微妙な立場であり、登場も最初と最後の方だけである。

ジュリアンは、熱烈なロベスピエール信奉者であり、行き過ぎるくらいに革命を推進しようとする部分がある。そのため、作品中では革命の申し子として描かれている。

一方、貴族であるアンリは、その貴族としての名誉にかけて生きていく姿が描かれている。アンリには次のように語らせている。

「なぜなら、貴族とは、国王と王国を支えるべく生まれ、その義務を持つ階級だからだ。王座を守護しない貴族は、自己の存在意義を放棄する者だ。私は義務を守り、貴族として生きる。もし時代がそれを許さず、王国が失われ、国王の存在が否定されるならば、貴族だけが生き延びて何になる。共に滅亡するのみだ」

これは、あくまでも貴族というものの一つの考えであるが、革命期において、国外に逃亡する貴族が多かった中、こうした貴族はいかほどいたのだろうか。

さて、フランス革命始まりの一つの象徴である、バスティーユ牢獄の襲撃から物語が始まる。その後、革命の中心となるパリではロベスピエールが台頭していく様子が克明に描かれていく。

だが、なにせ混乱している革命期を描いているだけに、正確に時系列を追っていこうとすると、大変な労力を要する。この中央パリでの政争が描かれながら、ヴァンデでの蜂起も描かれるのだから、読んでいてたまに混乱することもあるかもしれない。

ここは、気軽に読み進めるのをおすすめする。

本書では清廉の士として好印象のロベスピエールだが、個人的なイメージとずれていて戸惑った。

ロベスピエールと言えば、一七九三年に国民公会からジロンド派を追放して権力を掌握すると、公安委員会、保安委員会、革命裁判所などの機関を通して恐怖政治を行った人物であり、「徳なき恐怖は忌まわしく、恐怖なき徳は無力である」と主張した一種の独裁者的なイメージがある。最終的にはギロチンで処刑される点も、こうした独裁者ならではの最期を感じさせる。

見方の違いということであろう。

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内容/あらすじ/ネタバレ

たった七人しか囚人のいないバスティーユを奪取して浮かれ、安易な勝利に陶酔する様子にジュリアンは苛立っていた。この日、パリ大学の賞のかかったコンクールに参加していたジュリアンは急いで戻り「バスティーユを陥落させたことは、取るに足らない。王座を打倒すべきである」と書きつづった。

この市民の様子を見に来ていたのが、陸軍少尉のアンリと部下のニコラであった。アンリは若干十六歳の貴族の子弟である。アンリは「貴族として私は、王政を死守する」と宣言する。

大貴族が祖国フランスを捨て、国外に逃亡した。ヴェルサイユでは日に日に住人を欠いていく。国王の側仕えであった国王親衛騎兵隊内部の混乱もはなはだしかった。

この混乱の中、十七回目の誕生日を迎えたアンリを祝にニコラは訪れたが、ここで突然の罷免を言い渡される。驚くニコラだが、この裏にはアンリの苦渋の決断があったことを知る。

一七九一年六月二十一日火曜日。フランス国王ルイ十六世は夜陰にまぎれフランスを脱出する。が、国境近くでとらわれてしまう。

この騒ぎの中、憲法を制定して任務を終えた立憲国民議会は解散し、新しい立法議会が発足する。

ジュリアンは父が立法議会議員の補欠議員になったことで、ジャコバン・クラブの最年少メンバーになった。

ジュリアンは清廉の士の異名を持つロベスピエールに深く傾倒していた。

そのロベスピエールが久しぶりにパリに戻ってきた。だが、革命の中核から離れていたロベスピエールには現状を見る目が少し曇ってしまっているらしかった。そのことに強い危機感を抱いたジュリアンは手紙で現状を知らせることを思いついた。

この手紙はロベスピエールを強く動かしたが、匿名であったため、書き主がジュリアンであることは知られなかった。

そして、皮肉なことに、ジュリアンはロベスピエールと敵対する勢力により、ロンドンへ行かされることになる。

一七九二年三月。ブリッソがジロンド派内閣を発足させ、オーストリアに対する宣戦布告を圧倒的多数で可決した。

そして第二の革命が始まる。この知らせをジュリアンはロンドンで聞いた。

一方、アンリたち王宮警備隊は国王を護ることができず、アンリは失意の中、故郷へ向かっていた。

フランス国王ルイ十六世の処刑は、各国の王侯貴族の心胆を寒からしめた。イギリスも中立声明をひるがえし、各国王侯に呼びかけて対仏同盟を画策する。

こうした情勢の中、全国に向けて三十万募兵令が発布され、ヴァンデ県にもこれが到着する。

だが、ヴァンデでは徴兵を拒否する者達が武装して立ち上がり始めた。蜂起は連日のように続いた。そして、ヴァンデ地方はほぼ全ての地域が蜂起軍によって支配下におさめられ、自らをカトリック王党軍と名乗る。

この戦いに、アンリも否が応でも参加せざるを得ない状況になってしまう。

カトリック王党軍は総勢七万の軍勢だった。

一方、パリではロベスピエールが宿敵のジロンド派をたたき伏せた。

本書について

藤本ひとみ
聖戦ヴァンデ
角川文庫 計約六一五頁

目次

第一部
第一章 王座を打倒せよ
第二章 身に負った宿命
第三章 革命は終わったか
第四章 祖国は危機にあり
第五章 第二革命、勃発
第六章 要塞ヴェルダン陥落近し
第七章 罪なくして、君臨はできない
第八章 雄途
第二部
第一章 三十万徴兵
第二章 その敵を打て
第三章 二十歳の逡巡
第四章 鷲は、どちらに飛ぶか
第五章 蜂起軍七万
第六章 独裁やむをえず
第七章 最高司令官カトリノー
第八章 ナント攻略
第三部
第一章 恐慌
第二章 ヴァンデを焦土とせよ
第三章 奸策
第四章 ロンドンからの密使
第五章 ショレ死闘
第六章 第三代最高司令官アンリ
第四部
第一章 ふくろう党の合流
第二章 罠
第三章 グランヴィルの邂逅
第四章 さ迷えるヴァンデ
第五章 殉国
第六章 巡る季節

登場人物

マルク・アントワーヌ・ジュリアン
アンリ・デュ・ヴェルジエ・ドゥ・ラ・ロシュジャクラン
ニコラ・ラザール・オッシュ
マクシミリアン・マリ・イジドール・ロベスピエール
ル・バ
サン・ジュスト
エレオノール
ヴィクトワール
ブリッソ…ジロンド派
オータン司教タレイラン
ミラボー伯爵オノレ・ガブリエル・リケッティ
ジャック・カトリノー
ミストゥフレ(ジャン・ニコラ・ストフレ)
デルベック(モーリスウ・ジョゼフ・イ・ジーゴ・ドゥ・エルベ)
ボンシャン侯爵シャルル・メルキュール・アルチュース
レスキュール侯爵ルイ・マリ・ドゥ・サルグ
タルモン公爵アントワーヌ・フィリップ・ドゥ・ラ・トレモワイユ
フランソワ・アタナーズ・シャレット・ドゥ・ラ・コントリー
フロル
マリー・ルイーズ
ジャン・コトロー
アグラ司教(ジャン・ルイ・ギィオ・ドゥ・フォルヴィル)
ヴァンサン・タンテニアック